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再逢(さいほう)
そこは本当に青の世界だった。青といっても鮮やかな藍色の静謐で静かな美しい青藍色。
ただただその青の空間が広がっている。
いた! 浩太だ!
透明度がある青藍色のなかに、私は浩太の姿を見つけた。
「浩太! 浩太! 浩太!」
私は叫んで浩太の胸に飛び込んだ。
温かい。ちゃんと生きていたころのあの頃の浩太のままだ。
「もう離れない」
「志穂」
浩太は私の髪の毛を優しく撫でた。
「志穂、逢えてよかった」
「私も。ずっとずっと逢いたかった」
私は浩太の顔を見上げてその瞳を見つめる。
「浩太、ごめんね。私の誕生日のせいでこんなことになって。痛かったよね。辛かったよね」
浩太は首を横に振りながら、
「大丈夫、事故はいきなりだったから痛みとか分からなかったよ。それにね。志穂のせいじゃないよ。僕が考えて行動したことなんだから」
そう言うと、浩太は私をぎゅと抱きしめて、
「志穂、誕生日だね。おめでとう。ごめんね。大切な日なのに悲しい日にさせてしまった。だから僕は志穂にきちんと伝えたい言葉があるんだ」
それを言ったら、もし私が受け入れてしまったら浩太は消えてしまう……。私は必死に言葉を繋いだ。
「浩太、見つけたの。この指輪。それに婚姻届も」
浩太は頭を掻いて少し恥ずかしそうな顔をした。
「あの日、志穂に指輪を渡してプロポーズしようと思ってたんだ。受けて貰えたら、結婚式を挙げたら出そうねって言って、志穂にも婚姻届にサインして貰おうと思った。気が早いよね。断られるかもしれないのに。都合の良いことばかり考えてた。なんだか浮き浮きしていて幸せだったよ」
「わたし浩太がプロポーズしてくれたら返事してた。はい、って言って。指輪も婚姻届も見つけたとき、凄く嬉しかった。嬉しくて、悲しかった」
「志穂……ありがとう。そして辛い思いをさせてごめんね。……志穂、愛してるよ。でもだからこそもうそれは処分して欲しい」
「なんでそんなことを言うの? 分からない、分からないよ」
私は激しく首を左右に振った。嫌だ。もう離れないよ。
私は浩太の顔を両手ではさむと、眉を頬を唇を撫でて、
「浩太はここにいる。離れない」
そう言ってしがみついた。
「志穂、分かって欲しい。僕はもう生きていない。その人その人に寿命ってあるんだよ。僕は死んだんだ」
「分からない。分かりたくない。寿命だなんて。だったら今が私の寿命でいい。浩太のいない世界なんて意味がない」
「志穂、そんなことを言わないで。僕の眼を見て。話を聴いて欲しい。志穂に逢いたかったんだ。心配だったから。君に幸せになって欲しいんだ。だから言いたかった」
このままだと浩太は言いたいことを言ってしまう……。
「あっ、浩太に逢えることしか考えてなかったから、何か浩太の喜びそうな物とか持ってくればよかったな。えっと、えっと……二人で旅行したときの写真とか。いやもっと他にあるよね。そうだ浩太の好きな手料理でも持ってくれば……」
浩太は哀しそうな顔をして私を見つめ「志穂……」と言ったまま黙って私を抱きしめた。
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