別れ

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別れ

 浩太の手が私の両手を優しく握った。 「志穂、幸せになって欲しい。そのためにも言わせて。届けたい言葉を」  浩太は大きく息を吸うと、ふぅーーと息を吐いた。  今度こそ浩太は言う……。   私は止めることができない。 「志穂ありがとう。僕と出逢ってくれて、僕を愛してくれて、ありがとう。志穂に出逢えてよかった。生まれて初めてこんなにも人を心から愛した。僕は幸せだった。志穂、本当にありがとう。感謝の言葉を君に届けたかった」  やだやだやだやだ。浩太消えないで。お願い、消えないで。分かってる。無理なんだって。送り出さなくちゃ駄目なんだって。だけど、だけど……。  優しい言葉が出てこないよ。 「浩太……」  もうそれしか言えなかった──。 「志穂……僕は行かなくちゃ。悲しい想いをさせてしまってごめん。だけど僕の死を受け入れて、そして幸せになって欲しい。僕の愛する人が後ろを向いたような生き方をして欲しくないんだ。強く生きるんだ。前を向いて」  浩太の身体の温もりが薄くなっていく。私から離れて消えてしまう。私は浩太の手を強く掴んだ。 「大丈夫。いつの世にか逢えるさ。きっと逢えるから」  浩太、浩太、浩太……。   なんて無様なんだろう。なんて諦めが悪いんだろう。せめて最後くらいしっかりしろ、私。  私は浩太の手を離した。    最高の笑顔を作らなくちゃと思った、けど……泣いてるような笑ってるような歪んだくしゃくしゃの情けない顔だと思う。  ありがとうって言いたいけどひとこと声を出したら泣き出してしまう。  少しずつ少しずつ浩太の足が腕が身体が霧のように薄くなっていった──。    
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