2、完全装備

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2、完全装備

 後数日で12月になる。寒いかもしれない。ザックの中には、雨合羽とライトダウンが入っている。お昼のお弁当も補食も水も、救急セットも全部入っている。  履いている靴はトレッキングシューズ。厚手のシャツに伸びる素材のパンツを穿いている。勿論ヤッケも羽織っている。  たった一人で一応は山と呼べるものに登るのだから、装備には気を付けた。これは多分、人生も同じだ。  準備を怠りなく整えて、急がず焦らず自分のペースで昇り勾配の道を登る。登ったら下りがある。本当に「人生の様だ」と真白は思った。  準備をするのも歩くのも自分自身だ。見える景色も自分だけのものだ。  そう考えたら、少し誇らしくなった。誰とも群れず、つるまない。  これが本来の真白のスタイルなのだから。  4月に一般企業に入社して、居心地の悪さを感じていた。 大企業と言われるその会社の社員たちは、社会の価値観にどっぷり浸かっていた。女子社員同士の牽制の仕合い。結婚相手探しの派遣とキャリアを積むつもりの女子正社員。そこに恋愛が絡むから余計に醜い闘争になる。  容姿で劣る真白は、派遣からも女子正社員からも軽んじられていた。真白の仕事はデザイナーだった。工業デザイナーだ。芸術系の大学を出て正社員として今の機械メーカーに入った。  早々とモデル制作班に配属されて仕事は楽しかった。仕事柄、同じ制作班の男性社員たちとの距離は近い。他の女子社員から、情報源としてまるでスパイのように使われた。 「ねぇ、あなたの所の○○さんって資産家のおぼっちゃまだって本当?」 「○○さんは、今、お付き合いしている方がいるのかしら?」 「○○さんって、○○常務の縁戚なの?」
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