9、初詣

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9、初詣

 翌年1月3日。真白と山口は、朝7時に清滝駅で待ち合わせをした。  真白は11月に単独登山をした時と殆ど同じ格好だった。羽織ものが違うだけだ。厚手のダウンを着ていた。  山口は普通の冬の服装で足元だけがスニーカーだった。 「明けましておめでとうございます」とお互いに言い合って頭を下げた。それ以降は薬王院に着くまで二人とも黙って山道を歩いた。  真白は遅れがちな山口を気に掛けるでもなく、どんどん山を登って行く。山口にとっては真白から意地悪をされている気分だった。  真白の姿が山口からは見えなくなった。 山口がやっと薬王院の階段を上がって鳥居に辿り着くと、そこで真白は地面に座り込んで待っていた。  真白は、にっこりして言った。 「お参りしましょう。開運と厄除け祈願です。二人とも必要でしょう?私は明日から新しい会社の仕事始めです。山口さんは悪縁祓いでしょうか?」  山口は真白の嫌味に少しムッとした。顔にも出ていたと思うのだが、真白は立ち上がると、また先に参道に向かって歩いて行った。山口が追い付く前に、真白は、さっさと一人で参拝して、天狗像の前で同じポーズを取って写真を撮ってもらっている。  山口は、そんな真白を見て、彼女は本当に傷ついたんだなと思った。好きとか嫌いとかそういうことではない。「バカにされた」ことだ。  前に高尾山に来た時に、確かに美沙と山口は、真白のリアクションの大きさに『バカみたいだ』と小声で言いながら笑っていた。  美沙が言っていた『真白という子』は、キャリア組だということを鼻にかけた嫌な女だった。仕事中の彼女を見ていたのに、そんな話を信じた自分が一番バカだった。
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