9、初詣

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 片一方の話を聞いて丸呑みするなんて本物のバカだ。 美沙のことだって碌に知らないのに社内の『美人でいい子』だという噂を信じた。外側は見えるし、内面だって社内なら幾らでも繕える。 恋愛をした気になっていた。相手の本質が何も見えていないのに大恋愛のつもりで3カ月で婚約をした。 「山口さんが見ていた私も、私が見ていた山口さんも、本物とは違うんじゃないですか?」 この真白の言葉は真理を突いている。  自分は『本物の美沙』も見えていなかった。母親が、美沙に不信感を抱いて、彼女の『素行調査』を依頼した。最初は母親の行為に怒り狂ったが、結果を見たら母の勘に感謝した。  大恋愛をしていた筈が一瞬で冷めた。気持ち悪くて性病検査まで受けた。 「あなたには、人を見る目が無いの。お見合いしなさい。まともな女の人を探してきますから!」 昨晩も母に言われた。  真白の事は、チームに入ってきた時から、若くて真面目で可愛いと思っていた。あまり話さない子で仕事が終わると直ぐ帰ってしまう。自分は、元々モテる方じゃないし、出会ってから日が浅すぎた。  でも、退職すると聞いて、これで終わりは嫌だと思った。  退職を決めてからの真白は、髪型も髪色も変わって、化粧も変わって良く喋る生き生きとした子になった。眉を顰める人も多かったが、ニコニコしているところだけは、前と同じだった。
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