10、頂上の空の下

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10、頂上の空の下

「私は明日から、竹内事務所というデザイン会社で働きます。そこは、子供用品から、生活雑貨、船みたいな大きなものまで何でも来いや!みたいな会社です。 そして社風は大企業とは違います。 私は、私が私らしく居られる場所に行くだけです。 もう、無理です。今の会社に居たら、自分が嫌いになってしまう。 違和感は、入社した時から感じていました。私に企業は合わない。転職の理由はそれだけです」    真白と山口は山頂広場に敷いたシートの上に並んで座っていた。 「会社を辞めても時々会ってくれる?」 「はい。もう一度、知り合いましょう。お互いに知らない人でしょう? まだ今は。 ただ、これだけは言っておきます。私は一人前の工業デザイナーになるまでは結婚しません。10年ですね。それが前提です。待てますか? 山口さん、40過ぎちゃいますよ?」 山口もニヤリとした。 「すぐ、付き合いは終わるかも知れない。そうでしょう?」 「そうです。それはお互い様です。だから、それで良かったら。もう一度、お互いに被り物を取って出会いましょう」 「被り物か・・・上手いこと言うね」 「もう本当にウンザリしてたの!虚栄心が強い人ばっかりなんだもの!最悪の会社だった。好きなのはモデル制作だけ。好きだと思った男は、案外バカで手練れ女に転がされちゃうしね!」 山口は面白そうな顔をした。 「本当にバカな奴だったな。女慣れしてないんだよ。見逃してやってよ。そこは長い目で見て育ててやって」  真白は空を見上げて呟いた。 「仕方ない・・・面倒みてやることにするか・・・」  真白の目から涙がこぼれた。 二人の指先が少しだけ触れた。
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