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「なんですか? 宅配便?」
「あの子、2カ月くらい前に置き配の荷物に悪戯されたことがあってね、それからは不在の時はあたしが預かるようにしてるんだよ」
「へぇ」
それがなんなんだ、相変わらずこの大家の長話は先が見えない。
「これ、一昨日の夕方に届いたんだ。見てごらん、差出人のところ」
進藤は気が進まなかったが千鶴子の圧に負け、仕方なく封筒の伝票欄を覗き込む。
そこには可愛らしい文字でこのマンションの住所のあとに「102」と部屋番号が記されていた。差出人名は「田中 太郎」。
進藤は思わず首をひねった。それを見て千鶴子は同意を得たとばかりに勢いづく。
「ね、102号室は進藤さん、あんたの部屋だろ」
「まぁ、確かにそうですけど」
それじゃ宛て先は、と進藤は目線を上にずらす。そこには同じくマンションの住所のあとに、「101」と書かれていた。宛て名は「神楽 結花」。
「俺、こんな荷物送ってないですよ? それにお隣さんへ荷物を届けるのに宅配便使う人なんているわけないじゃないですか」
しかも差出人の「田中太郎」という名前に、進藤は全く覚えがない。
「アンタがこれを送った張本人じゃないことはわかってるよ。これはあの子の字だからね」
あの子、とは101号室の住人、つまり神楽結花のことだろう。大家という職業は住人の筆跡まで把握しているのか。
「本人の字なんだったら、出先で自分に荷物を送ろうとして単に部屋番号を書き間違えただけじゃないですか? まぁ、この差出人名はふざけてるとしか思えないけど」
進藤がそう言うと、千鶴子はいつもは無駄に元気いっぱいな顔を曇らせた。
「そんなトンチンカンなことする子じゃないんだけどね……」
まぁ、言われてみれば確かにおかしい。
進藤は再び宅配便の伝票に目を戻した。品名欄の箇所を見ると、同じ丸文字で何やら書き込まれている。
「ソース」
「オリーブオイル」
「塩」
縦に並んだその文字は、何故だか少しだけ文字が乱れて歪んでいるように見える。
「中身は調味料……ですかね?」
「そうだね、ちゃんとここに書かれているのと同じものが入っていたよ」
すでに開封していたのか、粘着力の弱まった開け口を剥がし、千鶴子は封筒の中身を進藤に見せてきた。よくあるブランドの中濃ソースの容器と、細長いプラ容器のオイル、詰め替え用の食卓塩の小袋。
「え、ちょっと待ってください。他人の荷物、勝手に開けたんですか?!」
管理人室で預かったとは言え、許可も得ずに開封するなんてさすがに非常識だろう。進藤は咎めるように顔をしかめたが、千鶴子は悪びれる様子もない。
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