大家千鶴子の独善

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「これアンタのかい? 次から弁当の空箱はキレイに洗ってプラゴミで出しとくれ。なになに、『ガッツリ生姜焼き弁当』に『彩り野菜のヘルシー弁当』? アンタ、コンビニ弁当ばっかじゃないか、ちゃんと自炊しな」  進藤は千鶴子の手から弁当の空箱をひったくり、袋へ戻した。 「ちょっと、やめてください! 分別は次から気をつけますから……」 「わかってくれたらそれでいいんだよ」  千鶴子はふんぞり返って進藤を見る。  やっぱりこんな横暴な大家がいるマンションは、一刻も早く引っ越すべきだ……。進藤は涙目になりながら、とりあえず大学へ行くためにマンションをあとにした。  ──。  その夜、自室の小さなテーブルに肘をつき、進藤はスマホの賃貸情報を眺めていた。いざ探そうと思って探し始めると、これと言って目を引く物件は見つからないものだ。  隣の部屋からは、今夜も耳障りなギターの音が薄い壁越しに聞こえてくる。 「ったく、またかよ」  あぁ、どうせ引っ越すなら防音設備がちゃんとしてて、それに今よりももう少し広い部屋がいい。だって──。  進藤がこれからの理想の生活を思い描いていると、突如、玄関のほうで短くカチャっと音が聞こえた。  ──え……なんだ? 外から部屋の鍵を開けられた? まさかそんなこと。  恐る恐る玄関ドアへ目を向けると、ゆっくりと扉が外側へ開いていくのが見えた。そしてその開いた隙間から、丸い目が覗く。 「え、な、なんで鍵……なんで勝手に!」  進藤は弾かれたように立ち上がった。その間にドアはすっかり開かれ、そこにはピンクのエプロンをつけた大家、千鶴子がマスターキーをちらつかせながら不敵な笑みを浮かべ立っていた。 「あたしが大家だってこと忘れたかい? ちょっとお邪魔するよ」  千鶴子は靴を脱いで部屋へ上がろうとしてくる。 「ちょっと! 勝手に入らないでください!」  進藤が慌てて両手を広げるが、千鶴子は少しもひるむ様子がない。そればかりか挑発するように丸い顎をくいっとあげて見せた。 「どうする? 警察でも呼ぶかい? こっちも一応準備はして来たよ」  千鶴子は背中に隠していたフライパンを振り上げる。
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