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◇◇◇◇
千鶴子が威勢良く啖呵を切った数秒後、数人の警察官が到着し、その場で進藤は取り押さえられた。そして警官に詰め寄られると、すぐに南京錠の鍵の隠し場所を吐いた。
その鍵を使い、女性警官が急いで風呂場の扉を解錠する。浴室にはガムテープで口を塞がれた101号室の住人、神楽結花が手足を拘束された状態で眠っているのが発見された。
警官が結花の顔のガムテープを剥がしてやると、目覚めた結花はぎこちなく口を開けて息を吸い込む。そして警官の後ろに千鶴子の顔を見つけ、初めて弱々しく泣き声をあげた。
「うわぁん、千鶴子さぁん」
千鶴子は警官を押しのけ、結花の元へ駆け寄る。
「よしよし、怖かったねぇ、もう大丈夫だよ、もっと早くに助けに来られなくてごめんよ」
手錠をかけられた進藤がパトカーで連行され、結花は病院で検査を受けてから、警察署で事情聴取をされることになった。
千鶴子も聴取を受けることになり、もう一台パトカーを手配したからこのまま少し待つように、と部屋に残った女性警官から伝えられる。
救急車とパトカーを待つ間、千鶴子はまだ涙の止まらない結花の背中を優しく擦ってやった。
「それにしてもなんであんな回りくどいこと。あたしが宅配便の暗号に気がつかなかったらどうなっていたことか」
千鶴子の優しい声を聞きながら、結花は細い指で涙を拭う。
「でも、千鶴子さんなら絶対に気づいてくれるって信じてた。もしあたしが殺されちゃっても、千鶴子さんが暗号を解いてせめて犯人を捕まえられたらって……」
「あんた! そんな悲しいこと……それにそんな簡単に命を諦めちゃダメだろ!」
「……だって、怖かったんだよぉ、もう逃げられないかと思った」
また結花は顔をくしゃくしゃにして泣き出す。
「ごめんよ、わかった、わかった」
千鶴子は結花の髪をそっとなでてやる。
「あたしを信じてくれてありがとう。あんたのSOS、ちゃんとあたしに届いたよ。よく頑張ったね」
「ありがとぉ、千鶴子さぁん」
しがみついてきた結花を、千鶴子もぎゅっと抱きしめる。
「いいんだよ、あんたはあたしの大事な推し友だ。気持ちが落ち着いたらまた新大久保へ連れてっておくれ」
「うん、美味しいものもいっぱい食べようね!」
泣いたり笑ったり忙しいこの無邪気な若い友人が無事で本当に良かったと、千鶴子は心の底から安堵した。
(了)
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