罪悪感と救済の幻想

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罪悪感と救済の幻想

暗闇の中、重い足音が響く。夜の街は冷たく、彼の吐く息は白く染まっていた。通りにはほとんど人影がなく、街灯の光が淡く地面を照らすだけだ。彼、佐藤拓也はふらつく足取りで歩いていた。心に巣食う罪悪感が、彼の頭の中を絶えず蝕んでいた。 「また、あの夢だ……」 拓也は、ふと立ち止まり、ぼんやりと虚空を見つめた。夢の中で彼は何度も同じ光景を見た。破滅へと向かう自分の人生、その原因となったプロジェクトの失敗――そして、それによって失った全て。 彼はかつて、ある大手企業のエンジニアとして働いていた。新規プロジェクトの責任者として、若くして出世を果たしたが、それが彼の人生を大きく狂わせることになった。些細なミスが積み重なり、プロジェクトは失敗に終わった。その結果、会社に多大な損害を与え、彼は責任を取らされる形で辞職を余儀なくされた。友人も、家族も、彼の傍を離れ、孤独だけが彼を支配していた。 「救いなんて、あるわけない……」 拓也はそう呟くと、再び歩き出した。酒に酔い、薄暗い路地裏を彷徨う日々が続いていた。罪悪感から逃れるために、彼は酒や薬物に依存していたが、どれも一時的な逃避に過ぎなかった。夢の中で、過去の過ちが彼を苛む度、彼はその苦しみを増すばかりだった。 そんなある日、彼は街中で不思議な老人と出会った。老人は、ボロボロの服をまとい、無数のしわが刻まれた顔をしていた。だが、その目には不思議な光が宿っていた。老人は拓也に近づき、静かに囁いた。 「君、救いが欲しいんだろう?」 「届けてあげようじゃあないか、救済を」 拓也は驚いてその老人を見つめた。自分が救いを求めていると? この世界に救いなど存在しないというのに。だが、老人の言葉には何か得体の知れない力があり、拓也はその場に立ちすくんでしまった。 「私には分かる。君の心の中にある、深い罪悪感。それが君を蝕んでいるのだろう。だが、救済の道はある。君がそれを望むならば、私はその道を教えることができる」 拓也は、その言葉に魅了された。彼は救いを求めていた。罪悪感から解放されることを切望していた。しかし、その代償が何であるかは考えもしなかった。 「本当に……救われるのか?」 「もちろんだ。私に従えば、君は新しい人生を手に入れることができるだろう」 老人の言葉は甘美であり、拓也の心を捉えて離さなかった。彼は迷いながらも、その老人に従うことを決心した。
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