1.触手……? そんなの本当にいるのか?

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1.触手……? そんなの本当にいるのか?

「ゴホッゴホッ」    口元を布で覆っているのにひどいホコリで咳が止まらない。  俺は足を踏み入れたことのなかった屋根裏を覗き込んでいた。   「うわ……これはひどい……」    普段生活している一階とニ階は数年かけてなんとか人が生活していると呼べるくらいまでに片付け終わったところだった。といっても、正直に言うと片付けが終わったとは言い難い。なにしろ曽祖父の研究書物が溢れていたから。  地震があった時、上からドサドサと物が落ちる音がするまで屋根裏の存在には全然気づいてなかったくらいで、むしろ屋根裏は意図的に隠されていたような気もする。    ◇◇◇    ここは元々曽祖父が若い頃使っていた研究所だった。曽祖父はある日突然、研究をやめて街に出て結婚して曾祖母の実家がやっていた道具屋を継いだという。それで祖父や父はその道具屋を守っているのだが、俺は道具屋で触れていた書物の方に興味を持ち始めた。  俺に甘い祖父が商品の紙やペンを与えてくれて植物や動物などのスケッチを始め、生き物に夢中になっていく俺に祖父や父は特に店を継げとも言わず、「ハルロスは絵が上手だね」と好きにさせてくれた。俺は人と話すのもそこまで得意でなかったし、幸い、弟が店を継ぐ気満々だったからっていうのもあった。    そして祖父が亡くなる前、どうやらキャナス山の中腹に曽祖父が使っていた研究所があるらしいという話を聞いた。祖父も曾祖母からなんとなく聞いただけで行ったこともなければ詳しくも知らないという研究所。曽祖父が話題に出したがらなかったからと、曾祖母も聞くことをしなかったというその研究所に俺が興味を持つのに時間はかからなかった。  というのも、俺は動植物が好きな割に世話が苦手だったので、大自然の中に自生しているものを見るなら世話はいらない! 最高! と思ってしまったからだ。    詳しい場所もよくわからなかったから、研究所を探しに行く準備もかなり必要で、ここにたどり着くまでには何度も行ったり来たりしたものだった。やっと見つけた研究所はもはや廃墟になりかけていたんだよな。でも、書物だけは保護の魔術陣の施された収納棚に収められていて劣化などもなかった。  掃除を始めても、書物に手を伸ばすと寝食を忘れて読みふけってしまって全然進まないくらいには俺にとって宝の山で、曽祖父が何故ここを捨てたのかさっぱりわからなかった。    そんな片付けがメインの生活。研究所の裏手には綺麗な湧き水が流れていて水には困らなかった。食料調達が上手くいかなくて足りなくなるのは困る……なんて思っていたけど、山奥で小動物も人を怖がらないせいか、なんとか罠で捕獲できている状態。草はそこらじゅうに生えているしなんとかなる。  が、まあお察しの通り、片付けをしているか書物を読んでいるかみたいな生活で食生活は酷いものだった。   「クマが酷い……前より痩せたかな……」    湧き水の小川に映った自分は酷く貧相に見えた。元々書物を読むとかスケッチをするようなことが好きだったから、ガタイが良いとは言えなかった俺だけど、研究所に来るために少しは身体を作ったはずだった。でもここに着いてからは室内に籠もりきりで面倒を見てくれる家族もいないときて、街にいたときより痩せこけてしまっている。  それでも俺を惹きつけて止まない曽祖父の書物。俺は死なない程度に食事をしながら片付けをした。  
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