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そんなマカルがお礼にとお金をよこそうそうとするから、そういうつもりで助けたんじゃない俺は、建前上、こんなところでお金なんか役に立たないと断ったんだ。するとマカルはハッとして、『じゃあたまにここに必要なものを届ける』と言いだした。
俺が痩せこけて不健康そうなのを気にしているのか、今は助けてやったときとは逆に世話を焼かれている。義理堅いというか、いい奴なんだよね。でも年に二回来てくれるのは本当に助かってて、次はいつ来るかなって楽しみにしてたんだ。
だから、触手ちゃんを紹介したとも言えるんだけど……。
「つ、つまり、ハルロスがそんな感じなのは……その、触手、のおかげ、だと?」
「うん……まあ」
この見た目になった経緯までは話せないけど、触手ちゃんのおかげではあるから一応頷く。
触手ちゃんが悪いやつじゃないと知ってもらって、そして秘密にしてもらえれば十分なんだ。きっとマカルならわかってくれるだろう。
「俺が数年かけてできなかったことを、触手は数カ月で解決したってのか。やっぱ側にいないと無理なのか」
「ん?」
「いや。それにしても、変わりすぎてて……」
「確かに痩せこけてクマがひどかったもんなぁ」
「わかってたのかよ」
マカルにはわかってたならもっと生活に気をつけろと言われてしまった。もしかして、俺がちゃんと生きているか確かめるために、年に二度見に来てくれていたのかな。なにか必要なものはないか聞いただけじゃなくて、マカルが選んだものまで置いていくんだよね。それで、こっちもどうお礼をしたらいいのか迷って、作った薬なんかを渡していたんだ。お金なんて持ってないしさ。
「少し滞在していくよね?」
「ん、ああ、でも……」
「触手ちゃんなら大丈夫だって。本当に賢くて優しい子たちなんだ」
マカルはハルロスがそう言うならそうなんだろうなと納得はしてくれた。命を助けてあげたからか、信頼されすぎている気はするんだけどね。
どうやら翌日にはマカルも触手ちゃんに慣れて、話しかけていた。二人が仲良くしてくれるのは俺としても嬉しい。それにマカルにも触手ちゃんがとても賢いことは理解できたみたいだ。
俺が教えた薬草を採ってきた触手ちゃんをマカルがすごいすごいと褒めて、触手ちゃんがいつもより多めにぴこぴことさせていた。あれは俺以外の人間に褒められて、恥ずかし嬉しいみたいな感じなのかもしれない。普段の触手ちゃんも可愛いけど、いつもと違う様子がなんだか微笑ましい。
と思ったのもつかの間。非常に嫌な空気が漂っている。いや、別にマカルと触手ちゃんが険悪になっているとかそういうんじゃない。
つまり、触手ちゃんが赤くなってフェロモンが漂い始めているんだ。個体によっては年単位で間があくこともあると曽祖父の記録にはあったけど、うちの触手ちゃんは短期間で交配するタイプだったようだ。
のんきに『ようだ』とか言っている場合じゃない……今はマカルがいるんだ。非常にまずい。
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