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10.ハルロスと触手の……*
※注:この話以降は、マカル視点となります。
久しぶりにハルロスを訪ねてみれば、奇妙な生物が家の周りにいて驚いた。あんなバケモノ見たことないし、絡め取られたときには死んだと思ったんだけどな。
家の中から現れたハルロスは、最初本人とは思えなくて誰かと聞いてしまったほどだ。俺の知っているハルロスは顔色も悪く、痩せてヒョロヒョロでいつでもクマがあって今にも倒れそう……でも、目は澄んでいて研究熱心。知識がすごいのにそれでなにかしてやろうというんじゃなくて、ただ、それを追い求めているようなそんな男。純粋で優しい男。
だから命の恩人ってだけじゃなくて、少しでも力になりたくて、いつもの仕入れなんかのついでに、遠回りしてここまで来ていた。さすがに仕事があるし、ここはどこからも不便で年に二回ほどくらいしか来ることができなかったんだけどな。
紙やペン、インクとかばかり頼んでくるハルロスに、俺は半ば強引に食料なんかも渡したり、衣料品なんかも持ってきたりしていた。ハルロスはそれをどう捉えたのか……作った薬なんかを返してくる。実はこの薬、そんじょそこらの薬より性能がいい。こんな才能があるから俺が襲われたとき命を助けられたんだろうが。
俺は別にハルロスの薬がほしいわけじゃない……ありがたいっちゃありがたいけどな。なんとなく命を救われた感謝を伝えたいのに、受け取ってもらえないような微妙に悔しい気持ちになるものの、それがハルロスだよなって気もしていた。
「えっと、触手………ちゃん? それハルロスが言っていた薬草? めっちゃたくさん摘んできてるじゃんか。すごいなお前さんは」
ハルロスが賢い賢いと褒めるように、確かに触手は喋れなくてもこっちの言う事を理解している。ハルロスの言う事だけじゃなくて、俺の言うこともわかっているみたいだ。褒めれば触手の先端を動かしているし、あまり嬉しくなさそうなときはブンブンと振るときもある。
この触手がハルロスの面倒をみていたから、あんなに健康的になったってことなんだろうな。
今も慣れないのが……健康的になったハルロスは、高貴な血でも流れているんじゃないだろうかという気品があることだ。気品だけでなく、ほんのり漂う色気もあって、いろんな人間と取引のある俺ですらドギマギしてしまう。それでも澄んだきれいな目は最初と変わらず、俺が『いい人間だ』と好意を持ったハルロスのままだ。
そのハルロスが昨夜からそわそわしている。妙に焦っているような気まずそうな、今まで見たことない様子というか。でも気にはなっても、ハルロスが言いたくなさそうなのを聞きだすのもなと思って、俺も聞きはしないんだけども。
夜中にボソボソと聞こえてくる声に目が覚めた。
「触手ちゃん、お願いだからもう少しだけ待ってくれないかな。ほら、今はお客様がいるだろ? ……いや、そこをなんとか。頼むよ」
お客様って俺か。何を頼んでいるんだろう……俺がいるとまずい何かがあるって? それはちょっとばかり疎外感というか。だってなぁ、ハルロスが触手を教えてくれたのだって、相手が俺だからだって少しばかり自惚れていたんだ。なのに……。
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