13.触手と俺らの奇妙な関係

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 それにしても、俺が話しかけているのなんてさっぱり耳に届いてないようだ。でも、聞けば聞くほど、言葉の端々に俺への好意を感じるんだが。自惚れていいんだろうか。   「うーん、つまり……触手さんは、俺とハルロスをくっつけようとしてるってことでいいのか?」    俺がぽつりと呟けば、触手の先端がぴこぴこと動く。これは是だ。なるほど……。   「触手ちゃんひどいぃぃ」 「ハルロス、ハルロス」    興奮して周りが見えていないハルロスの頬に唇を寄せれば、ピタリと動きが止まった。またじわじわと赤くなってきて、俺を伺うようにそっと上目遣いに見る……その行動はわざとか!?   「落ち着いて。まず、言わせてくれ」 「嫌いになった?」 「だから、まず話を聞こうか」 「はい……」 「あー、俺はハルロスが好きだ。人間として……あと性愛を込めたものとして。たぶん、助けてもらったときから。きちんと自覚したのはこの交配を見てから。だから、ハルロスは恥ずかしかっただろうし嫌だったかもしれないけど、俺は気持ちに気付くキッカケになった。押さえ込んでたけど、触手さんにめちゃくちゃ嫉妬してたし、でも反対にハルロスのために身を引かないととも思った。もうハルロスのことは触手さんに任せて、俺はここに来ないつもりで帰ろうとしてた」    ハルロスは俺の話を聞きながら、今にも泣き出しそうだ。   「でもなぁ、触手さんはそれを見抜いて俺を確保してたわけ。ハルロスのためにな。俺が思うに……触手さんは、言葉がわかるんじゃなくて、心が読めるんじゃないか?」 「え?」    びっくりするハルロスと違って、触手さんはまた先端をぴこぴことさせている。   「俺の心の奥底のハルロスへの想いと、勘違いじゃなければ……ハルロスの想いが同じなのを感じ取って、強引にくっつけようとしたのがあの交配と……その、俺たちのセッ……ん゛んっ」 「そ、んな……」 「推測だけど。違う?」    何度も口を開いては俯くのを繰り返して、やっとハルロスは俺をしっかりと見る。   「わかんない。わかんないけど! マカルに……もう会えなくなるのは嫌だ……。インクも紙も食べ物も服も持ってきてもらわないと困る……」 「ちょ」 「それに、ひとつになったのだって嫌じゃなかった……」 「っ!」    蚊の鳴くような声で最後に付け加えてハルロスが言った言葉は、俺にはそれでもやけにくっきり聞こえた。  ジワジワと嬉しい気持ちが胸の中に広がっていく。命を助けた者と助けられた者として、友達のように過ごしていた期間だって悪くはなかったけど、一度気付いてしまえば気持ちを受け入れられることの幸福感といったら……。  触手に抱え上げられたまま、俺はハルロスの額にキスを落とした。   「でも……俺、触手ちゃんとああいう……」 「研究、だからなぁ。研究に突っ走っちゃうそういうところも俺の好きなハルロスだから。それに……好きなやつのあんなエロい産卵見られるとか、多分世界で俺くらいだから得したと思っておく。アレを思い出すだけで何度でも抜けそう」 「や、やめてくれってば!」    触手は俺らをゆっくりと下ろすと、ハルロスと俺の頬を交互に撫でまくってくる。いや、本当に敵わないな。賢いどころの騒ぎじゃない。
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