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14.家族を増やさないか?
触手の表面はすでに最初出会ったときのようにさらさらに戻っていて、先端の赤さも消えている。森の中でじっとされていたらただの植物にしか見えないだろう。
「改めて聞くけど、触手さん。俺がハルロスを幸せにしていいですか?」
「ふぇ?」
触手はまた先端をぴこぴこと振る。チビたちも不器用ながらぴこぴこさせているみたいだ。
「ほら、ハルロス、前妻と子どもたちの許可は取ったぞ?」
「前妻じゃない……」
「ははっ! なぁ……一回だけは街に帰らなきゃだけど、ちゃんと用意して戻ってくるから、俺と……」
「一緒に行ったほうがいい?」
「だめ、絶対」
今のハルロスを他人に見せるなんてとんでもない。きっと老若男女問わず惑わせてしまうだろう……考えただけでも恐ろしい。これは情けなくもセコい俺の独占欲だ。俺だけのハルロスでいて欲しい……隠しておきたいと思うのも、仕方ないと思うんだよな。
というか、さっきプロポーズを遮られたな。わざとだったらヘコむけど、ハルロスに限ってそれはないか。むしろプロポーズだと気付かずに口を挟んできたんだろうなぁ。ハルロスっぽくて微笑ましい。
「触手さん、お願いがあるんだけど。俺がちゃんと仕事を整理して戻ってくるまでハルロスが無理しないように見ててほしい。絶対に戻ってくるから」
「なんでそんなの頼むんだ。俺だってちゃんとできる」
「……」
「そんな目で見ないで……」
触手はぴこぴこと揺らしている。俺がちゃんと戻ってくるって決意しているからか止められなかった。頼もしいな。彼女はしっかりしてそうだし、ハルロスに無理はさせないだろう。ハルロスを好きなもの同士、ここはタッグを組めるところだ。
「ていうか仕事……辞めちゃうの? 俺のせいで?」
「それは少し違うなぁ。ここに拠点を移して、物売りから薬売りになるだけだ。ハルロスの隣で支えさせて?」
「!?」
「だめか?」
ハルロスはだめじゃないと小さな声で言うと、赤い顔を隠すように俯いてしまった。どうやらやっと俺のプロポーズが通じたようだ。
◇◇◇
あれから、俺とハルロスと触手たちは仲良く暮らしている。といっても、俺とハルロスが一緒に暮らし始めて三年経ったとき、最初の触手さんは虹の橋を渡っていったのだが……。
どうやらハルロスの曽祖父の記録していた本来の寿命よりかなり早かったようで、その時のハルロスの落ち込みようはひどかった。俺もかなりつらかったから、俺以上に触手と信頼関係を築いていたハルロスはよほどだったと思う。それでも子どもたちがいたからなんとか立ち直れたんだよな。
「なあ……ハルロス。子ども作らないか?」
「ひゃえ!?」
「考えたくないだろうけど、あの子達だっていつか寿命がくる。個体差はあるんだろうけど、生まれた時期がほぼ一緒だろ? 立て続けにってことになったらお前が心配だ」
「マカルも産む?」
「いや……俺は……」
ハルロスは俺が辞退するとムスッとしていたけど、真剣に考えだしたみたいだ。
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