48人が本棚に入れています
本棚に追加
触手たちは今の俺たちの生活になくてはならない家族であり、共同経営者だ。触手の粘液や蜜玉を少しだけ配合したハルロスの薬は、それはもう効果絶大で、注文が後を絶たない。
そのせいで売りに出ている俺は、少しばかり危ない目にも遭いそうになったが、それを助けてくれたのも触手だ。触手たちはまだ不思議な能力を隠していると思う。
そんな良い関係を築いている触手たちだ。ひとつだけは卵を封印してあるが、全員いなくなったら正直俺もつらい。
「そのうち、俺がいい人間見繕って、あてがってやるかなぁ……」
実はアテがないわけじゃない。俺はこう見えても人を見る目には自信がある。かなり若い頃から商売をしていて鍛えられた目ってやつだ。仕入れをするにも物を売るにも付き合う相手の人間性は大事だし、それに物の真価を見抜く力だって必要だからな。
てことで、ハルロスみたいに底抜けにいい人間だって、一応少しは頭に浮かぶ。彼らが触手を受け入れられるメンタルを持っているかまではまだわからないが……。
なんだかんだ言って、あの子たちはハルロスの子だ。危ない目には合わせたくないんだよな。
「マカル…………俺……卵産んでもいい……」
「そ、うか」
「なに、その顔」
「あのとんでもなくいやらしいハルロスがもう一度見られるのかという喜びと、でも俺のハルロスなのにという相反する複雑な……感情をどうにも処理できない」
そう正直に伝えれば、ハルロスがぎゅうっと俺に抱きついてくる。
「俺だって、もうマカル以外に抱かれたくないけど……。でも触手たちが全員いなくなるのは嫌だ……」
「うん、そうだな」
「だから……とりあえず、ひとりだけ選んでもらって……それ以降のことはそのあと考える」
ハルロスと話をまとめて、外にいる触手たちに話すことにした。ハルロスは恥ずかしそうにしつつも、触手たちを集めて、囲まれるように真ん中で触手たちにボソボソと話しかけている。
話を聞いて希望したのは九体のうち二体……思ったより少ない。俺の予想では取り合いになるかと思ったんだけどな。
二体には仲良く話し合いなりして決めてくれと伝えた。喧嘩したり悪いことしたりしたら、この話はなかったことにと念の為釘を刺しておく。いい子たちだからそんなことにはならないはずだけどな。
「残りの子たちにも、いつか婿をとは思ってるんだけど、ハルロスはどう思う?」
「そりゃ、受け入れてくれて大事にしてくれる人なら……でもよくわからない人間は怖いな」
「それもそうだし……ひとつだけ大きな問題がある」
俺がハルロスをじっと見てそう言うと、ハルロスもきゅっと真剣な表情でゴクリと唾を飲み込んだ。
「ここに人を呼んだら……ハルロスが他の奴らに見られてしまう……」
「はぁ?」
「こんな魅力的なハルロスを他の男に見せるなんて由々しき事態だろ」
「バカじゃないか……」
別に見た目だけが好みなわけじゃないし、なんならヒョロヒョロのクマありハルロスだって好きだったけど、今の姿はヤバすぎるんだって。あー、本当にこんな美人で純粋で可愛い男を伴侶に迎えているとか、いまだに夢かと思うことがあるんだよな。
最初のコメントを投稿しよう!