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ハルロスはすでに起き上がってベッドに腰を掛けていて、俺を待っていた。
「ほら、湧き水」
「ありがとう……冷たくておいし。ミミも、ありがとね」
「身体は? つらくないか?」
「大丈夫……。ていうか、その……すごく、気になるんだけど……」
ハルロスの視線の先は、俺の頭の上。そりゃそうだろう。
話しかけられたチビは頭から飛び降りると、ハルロスの膝ですりすりとしている。コイツ……欲望に忠実だな。他の子はおとなしいのに……俺のせいなのか?
「マカルの子……だね」
「すまない」
「なんで謝るの? 可愛いよ。もちろん俺の子も可愛いけど」
三回も産卵して、数年触手たちと暮らしているからかハルロスはすっかり親の顔だ。そういう俺も、触手たちはみんな可愛いと思ってるけどな。
それにしても、俺の子だけ本当に性格が違っていて苦笑してしまう。ハルロスの子たちは控えめで、照れ屋な感じなのになぁ。俺の子がハルロスから離れなくなってしまったので、しょうがないから俺が夕飯の用意なんかをしにいった。
外にいた他の触手たちが、キッチンの窓から覗いている。
「お前たちも、ずっとおとなしく待っててくれてありがとな。ん? くれるのか?」
二体が俺に蜜玉を差し出してくる。コイツらはピピとリュリュ。俺に懐いていて、俺が許したら絶対卵を産ませようとしてくるだろうけど……それだけは無理だ。ごめんな。
最初の頃は蜜玉を無理やり口に突っ込まれたもんだけど、一緒に暮らしだしてからは薬に使えるように手に落としてくれるようになった。抱卵しているわけじゃない俺になんてくれなくてもいいだろうに、ほんと優しいんだよな。
「これ使って、ハルロスの好きな果物茶でも出すか。……ん? もちろん俺も飲むって。せっかくくれたんだから当たり前だろ?」
そう伝えれば触手たちは満足そうにぴこぴこと揺らしながら離れていく。どことなく、二人の女子がきゃっきゃしているようにも見えて、笑ってしまった。
微笑ましく見られるほどすっかり慣れてしまったけど、最初は俺も悲鳴を上げて怯えてたんだよなぁ。やはり、婿をとるのも一苦労かもしれないが……やるしかないだろう。
まずは薬製造の従業員として魔力契約で信頼できる男を雇ってから、触手と相性良さそうなやつで、快楽に弱いとか好奇心旺盛なやつをあてがうとかならいけるんじゃないか?
問題は、触手のことを外部に漏らすわけにいかないから、魔力契約を外部委託はできないことだ。つまり、俺たちで魔力契約については学ばないといけないわけだが、それくらいは努力しないとな。
婿もとれて薬製造も規模を広げられるなかなかいい作戦だと思う。
「ハルロス、果物茶持ってきた。あと軽食」
「わぁ! ありがとう!」
「相談したいことがあってさ……」
俺はさっき考えた従業員アンド婿作戦をハルロスに伝えた。ハルロスは最初は驚いていたけど、徐々に笑顔になって、嬉しそうに同意してくれたんだよな……尊い。
とりあえず、ハルロスや触手たちが安全に暮らせる環境を整えてやらないと。このハルロスの研究所もできれば増築して、不審者が入れないようにもしたいしな。
俺がそんなことを真剣に考えたのが、いつの間にか触手たちに伝わっていたようで、気付いたら研究所を中心に一定距離で防壁作りを開始していた。これまたすごいのが、今まで知らなかった粘液なのか、積まれた石を固定している成分が頑丈なのなんのって。
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