17.婿取り

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 結論から言うと、この男は契約に応じた。しかも、来てみればなかなかに肝が据わっていて、触手たちを見ても俺みたいに叫ぶこともなかったのは嬉しい誤算だ。  むしろ触手よりハルロスの美しさに腰を抜かしそうになっていたくらいで、それでも俺の伴侶であり薬の開発者と紹介したら、ちゃんと礼儀正しく接してくれている。ハルロスに色目を使う気配もないし、さすが俺の見込んだ男だ。 「いいやつが来てくれて助かってる」 「ほんとにねぇ。あんなにすぐに触手たちと仲良くしてくれるなんてびっくりした。触手たちの名前っていうか識別はなかなか難しいみたいだけど。あはは」  もともと薬に興味のあったやつだから作り方を覚えるのも早くて、ハルロスと二人にしても大丈夫なくらい真面目なやつだ。ハルロスと性格が似ているというか、休日はほぼ一日中書物を読んでいる。触手とも遊んでくれて、とても仲良くしてくれててありがたい。  本当に当たりだった。是非とも婿になってもらいたいもんだ。  この男と番いたいかこっそり触手たちに聞いたら、案の定希望した子がいた。あとはあの男が受け入れるかどうか、だが。 「は、え? 触手と……って、ええ!?」 「驚くのも無理はない。でもな、ここにいる触手たちはみんなハルロスの子なんだ……あー、一体だけ俺の子が混ざってるけどな。詳しい生態についてはハルロスから聞いてもらいたいんだが、人間の雄と番って子孫を残さなきゃいけないんだ。君を見込んで、婿になってもらいたい。が、これも意思は尊重するし、断っても解雇にはしないから安心してくれ。今までみたいに働いてもらえたら助かる」  そりゃあ驚くだろうし、俺がどうしてもケツを許せないように人によっては嫌悪感もあるよな。だから、よく考えてもらってでいいんだ。そう思って、いろいろ説明したけど、目をつぶって眉間をぐりぐりしながら目の前の男が答える。 「う、うーん……ちなみにどの子ですかね?」 「え、あ、ネネだな」 「あー。なるほど……。わかりました、一応前向きに検討します。もう少しネネと仲を深めてもいいですか?」  意外な答えにこっちが驚いた。でも聞けば、ネネはこの男にかなり懐いていて、いろいろ手助けしてくれたり蜜玉をくれたりしているんだそうだ。それで、他の触手よりもネネには好感を持っていたし、ネネだけはすぐ識別できるっていうんだから、ネネもやるじゃないか。  まだ先のことかもしれないが、仮に彼らが交合するとなったら俺たちに見られるのは嫌だろうと、急いで広めの部屋を作ってやった。アレの最中は触手に任せておけば、身体の心配はいらないから部屋さえあればいいしな。 「あ……の、ネネを受け入れることにしました……」 「本当か! ありがとう! ネネも喜ぶ」 「でも、その、私に産めますかね……それが不安で」 「大丈夫だよ。俺も最初は怖かったけど、触手は優しいし絶対痛いことはしないから……ていうか、アッチの刺激は強いよ。気持ち良すぎてね。でも、大丈夫。俺は何度も産卵してるし。子ども、可愛いよ?」  男はネネを受け入れてくれて、見事、二週間後に五つの卵を産んでくれた。他の触手に教えられて部屋に行くと、相当快楽責めにされたのか、男は魂が抜けたような蕩けた顔になっているし、ハルロスのときと同様に美しく健康的になっている。  美しくなると言っても、見た目がガラリと変わるわけじゃなくて、持って生まれた素材を、いい方に振り切ったらこうなるだろうなって感じなんだけどな。ハルロスは元が良かったんだろう……それこそ曽祖父もこういうことをしてたわけだし。  男も復活してから自分の顔や身体を見て驚いていたな。それは見ていて少し面白かった。
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