18最終話.触手との生活のススメ

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18最終話.触手との生活のススメ

「私みたいな、真面目しか取り柄がない学問好きはモテないと思ってましたが、こんな別世界が広がっているなんて……しかも、子どもを持つとか、一生縁がないかもと思ってました」 「わかるよ。俺もそうだったんだ。最初は一人でここに籠ってたからさ。それに、触手と出会う前は痩せこけてクマがひどいとマカルに心配されてたからね。今はまるごとマカルが愛してくれたからこんなだけどね」  産卵したもの同士、ハルロスと男は仲良く話している。二人の膝の上にはチビたちがわさわさと乗っていて戯れているのが可愛い。あの子たちは、また少し性格が違いそうだ。  男は膝の上のチビたちを撫でて、優しい眼差しを送っている。 「なんていうか、自分の子だと思うとより可愛いですね……」 「でしょ!? 絶滅させたくなくてさ。それでマカルがいろいろ考えてくれたんだ。君が来てくれて本当に良かった」 「薬も触手たちも……絶対に守りたいです」  俺の目に狂いはなかったな。少しずつ人を増やせたら最高だ。  実は俺の子──ルマと名付けた──はハルロスとどうしても番いたいらしく、「待て」をさせている。さすが欲望に忠実な俺の子だ……ちょっと複雑だけど。ただ、ハルロスもルマからの気持ちはまんざらではなさそうなんだけどな。  ミミの二回目のときは、俺から無理やり搾り取るのはやめてもらった。ちゃんと三人で相談して、俺がハルロスの中に出した精液を回収して使うならいいと許可したというか。何を言ってるかわからないというか……それもどうなんだとは思うけど、ハルロスとミミはそれでもいいらしい。  俺の子がもっとほしいんだってハルロスに訴えられたら、俺が負けるに決まってるんだよ。妥協点探すしかないだろ?  とりあえず、その時の卵は五つのうち三つを封印してある。もちろんミミの許可も得た。ハルロスの血筋だけじゃなくて、俺の血筋の触手の卵も保管したいってハルロスが言ったからなんだけどな。  全部を保管したわけじゃないけど、確率的には俺の子が混じってるはずだ。かなり俺の精液を回収してるのを見たからな……執念がやばい。  そう言いつつも、俺の血を引いた卵がハルロスの血を引いた卵と一緒に時を超えていくかもしれないと思うと少しだけ感動する。  ◇◇◇  ハルロスが言うには、ハルロスの曽祖父は良くも悪くも本当の研究者で、子どもをたくさん作ってはいたけど、人間社会に戻ると決めたらすっぱりとここごと切り捨てられる人みたいだってことだ。ハルロスは「それを考えると、すごい人だと思うけど、仲良くできたかわからない」って言ってたな。  実際はどうだったのかなんて誰にもわからない。もしかしたらハルロスの曽祖父だって断腸の思いでここを去ったのかもしれないしな。そのときの触手たちがどこか別のところで血筋を繋いでいるのか、それとも淋しく枯れていったのかもわからないんだ。生きててくれたらいいなと思うけど。  そして、俺とハルロスは、こいつらを捨てるのは無理だった。それだけのことだ。  今、従業員は五人に増えて、その中で婿は四人になった。自分の『人を見る目』が間違いなさすぎて笑う。触手たちもかなり増えたけど、楽しくやっている。  薬だけじゃなくて、いろいろと手広く触手に手伝ってもらっているし、生活は安定してると言っていい。しようと思えば贅沢もできるしな。
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