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触手ちゃんは気ままに散歩をしたり日向ぼっこをしたりしながら、のんびりと建物を一周して気が済んだようだ。
それからは時々一緒に外へ散歩に行くようになった。ちゃんと晴れた日にしか行きたがらないのも可愛い。雨の日に出たがられても俺も困るしね。そんなことを繰り返していたけど、数カ月もしたら触手ちゃんだけで散歩に行けるようになっていた。つまり、そのくらい大きくなって、ひとりでも大丈夫そうだなと思えるようになったということ。
触手ちゃんが俺の目の前で獲物を捕獲するところは見たことがないけど、どうやら運良く獲物を見つけた時は食べているようだった。あれだけ賢くて、擬態もできたら、触手ちゃん自体が罠みたいなものだもんなぁなんて思うし。
「それにしても、随分デカくなったなぁ……なんか触手ちゃんの触手の先が赤くなってきてるし……紅葉? 違うか」
大きくなった触手ちゃんは家の中ではリビングしか居場所がなくて、湧き水の流れているところかリビングのどちらかにいるようになった。
小さい頃は研究室に来たり屋根裏に登ったりしていたけど、賢いからか本をだめにするかもとわかっているみたいで、大きくなってからはしなくなった。リビングは俺の寝室も兼ねているから、触手ちゃんと一緒に過ごす時間が劇的に減ったわけではないけどね。
それにしても曽祖父の記録の抜けているところが未だに見つからない。俺は屋根裏をもっと丁寧に片付けながら整理していたのだけど、どうもなさそうなんだよな。
だいたい、触手の卵を曽祖父はどうやって手に入れたのか。あの触手ちゃんは雄なのか雌なのか。植物っぽいようで動物であろうあの生物はどうやって交配するのか。曽祖父がそこを抜きに卵だけ保管する不思議。
「いや、絶対にあるはずだろ。このひぃ爺さんが書いてないわけないんだから。どう考えてもここ以外に保管するのもおかしいし」
そう思って何日も探してやっと見つけた。それは卵が入っていたあの宝箱……あれがカラクリ仕掛けになっていて、魔法の鍵が隠されていたんだ。最初から触れていたというのに全然気が付かなかったな……灯台下暗しとかいう言葉があるけどホントその通り。
そして、箱に隠された鍵を手に持ったら、屋根裏の奥に隠された棚があるのを感知できて、そこに厳重に隠された記録を見た俺は言葉を失うほどの衝撃を受けたのだ。
「嘘だろ……」
しばらくそんな言葉しか口から出なかった。窓の外に見える触手ちゃんを信じられない思いで見る。
「アイツがひぃ爺さんの血を引いてるって? 俺の親戚ってことなのか……?」
曽祖父の隠されていた記録によれば、触手はすべて雌しか生まれずに人間の雄と交配して卵を残すというのだ。つまり、その当時の研究対象だった触手と曽祖父が交わってできた卵があの……。
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