再会

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 その昔、とても仲が良かった僕のお祖父さんと花菜のお祖父さんは、これから生まれてくる自分達の子を将来は結婚させ、親戚(うちっきり)として子々孫々まで助け合っていこうと誓い合った・・・が、それは残念ながら叶うことはなかった。生まれてきた子が双方とも男子だったから。    で、その夢は自動的に次の世代に持ち越されることになる。それが同じ年に生まれてきた僕と花菜だった。  今の時代に許婚だなんて、と普通は思うだろう。それでもお祖父さん達にとっては、血縁ほど強固な絆はないという昔からの考え方、価値観は絶対に譲れなかったのだ。こういう前時代的な風習は今でもひっそりと生き残っている。それが田舎というものだ。  何も知らない子供のうちは『ふ~ん、そうなの』と軽く考えていた僕達だったけれど、思春期にもなるとそうはいかなくなる。将来の相手を勝手に決められてしまうなんて!お互いに嫌いな相手ではないにしても、とても受け入れられるものではなかった。  僕達はお互いに意識して、避け合うようになった。ちなみに子供数が少ない僕達の学校は一学年に一クラスしかなくて、小・中の9年間でクラス替えというものが存在しない。ずっと同じ教室で、見える場所にいるのに。僕は男の友達と、花菜は女子のグループで行動するようになっていった。  その後、僕は地元の県立高校、花菜は隣の市の有名女子高に進学した。僕達の生活サイクルはまるで違っていたから、顔を合わせる機会はあまりなかった。それでも休みの日とかに思いがけず道で遭遇することもある。そんな時は機械的に『よっ』と短い挨拶をするだけだった。  僕達が高校2年生の時――花菜のお祖父さんが春に、同じ年の暮れに僕のお祖父さんも亡くなった。二人は人生の最後までこんなに近いなんて、どこまで仲が良いのだろうか!でもこれで、僕達を強制、束縛していたあのしがらみも消えて、ありのままの僕達に戻れるかもしれない。そうなればいいな、と期待した。  お祖父さんの葬式の日。  見慣れない高校の制服姿、黒いリボンで髪を束ねた花菜が遺影に一礼する。額に押しいただいた抹香を静かに三回香炉に落とす。大人顔負けの綺麗な動作だ。しばらく見ぬ間に花菜、立派になったな。感心しながらも、なんだか取り残されていくような寂しさを感じる僕だった。  焼香を終えた彼女がくるっと方向転換して家族席の方に一礼した。顔を上げた時、僕とまっすぐ視線がぶつかる。慌ててふたり同時にパッと目をそらす。その時に思った。お互いの気持を整理して昔の関係に戻るには、まだまだ時間が必要なのだろうと。  
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