僕と花菜

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 6年前。花菜がどこの大学にも進まず家業の農園を継ぐと聞いた時、ああ親孝行の彼女らしいなと思う反面、なんて勿体ないのだろう、とも思った。あんなに頭がいいのに。彼女ならもっと沢山の可能性があるのに、それをみすみす捨ててしまうなんて!  僕は・・・自分の人生は自分で決めたい。何かの犠牲になるなんてごめんだと思った。それに父さんが『俺が元気なうちは好きな事をさせてやる』と言ってくれたこともあったから、東京の大学に旅立って工業デザイナーの道を志したのだ。  それが今ではどうだろう。農園の後継者として両親を助けながら、短時間とはいえ社会の一員として働いて、一回りも二回りも大きく成長した花菜は、もはや大人の女性の品格すら漂わせてきている。かたや何者にもなれなかった変わらない僕。こんな僕が、ほんの一時でも彼女に優越感を感じていたなんて。  悔しいなあ・・・。昔から何でも彼女には敵わなかった。それが当然みたくいつも僕の前にいて、ちょっと気を抜けばたちまち見えない彼方まで行ってしまう。それが中澤花菜という存在だ。でも今に見てろよ、きっと追いついてやるからな!  僕は今さっきもらったおにぎりにガッとかじりついた。 「うっ、うまい!」  僕の大好きなおかかのおにぎりだった。子供の頃からの好物を、彼女は覚えていてくれたのだろうか。 その優しさがジーンと胸に滲みて、心と体が同時に満たされていくのを感じた。もっとゆっくり味わって食べよう。 そして食べ終わったら、僕も畑に出よう。
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