襲来

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襲来

 心の中で声がする。 『拓巳、本当に農業をする気なのかい?』 「うん、そのつもりだよ。どうせいつか僕が農園を継がなくちゃならないんだから。それが予定より少し早まったってだけの事さ」 『そんなこと言って、本当はやりたくないんだろ?僕にはわかるよ。だって僕はきみなんだからね』  確かにそれは紛れもなく自分自身の声だ。このネガティブな声はもうずっとずっと前から心の奥に住み着いている。僕が家業を継ぐ将来について考えたり、農作業を手伝おうとしたり、果樹園や畑に近付こうとするだけでも、必ず邪魔しに出てくるのだ。 『 もっと格好良くて、きつくなくて、高収入の仕事は世の中に沢山あるじゃない?まだ24歳の若さで、一つの挑戦事に失敗しただけなのに、もう何もかも諦めてこんな田舎に引っ込んでしまうのかい?』  ・・・何も言い返せない。その声は僕自身なだけのことはあって、説得力、真実味が半端ではなく、聞き続けているといつも最後には、まるで催眠術にかかったように、ああそうだよねと納得させられてしまうのだ。 『わかったかい?僕には農業は向いていない。僕には農業は向いていない。僕には農業は向いていない。向いてない、向いてない、向いてない・・・・・・・・・』  ここでハッと目が覚めて、布団から飛び起きた。 「・・・また同じ夢か」  何故こんな事を考えてしまうのだろう、僕は。自分の家系が代々この土地で営んできた農業というものを、軽く見ているつもりなど毛頭ない。親とか先祖、地域の人達へのリスペクトの心だって、人並みには持っているつもりだ。 それとも、まだ足りないというのか?  思えば中学生の頃にはもう、僕は農業から目を背け、それ以外で生きる道を探し始めていたように思う。そんな昔から、この気持は居座っていたのだ。何故だろう?そう思うようになるには、必ず何かきっかけのようなものがあったはずだ。それは何だったかな・・。だめだ、思い出せない、自分の事なのに。  それはモヤモヤした黒い霧に覆われて、簡単に見ることができない何かだ。でも、今が自分の気持にけじめをつける大事な時期なのだと思うから、なんとか思い出さなくてはならないと強く感じた。
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