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僕と彼の世界は、見えない壁に隔てられている
彼と出会ったのは昨日の早朝
真っ白な服を着た彼
短髪、角刈りのような髪型に無愛想な表情が印象的な彼
でも、僕たちを見つめる目は真剣で、その目に釘付けになってしまった
たくさんの仲間が居るのに、彼は僕をじっと見つめていた
この透明な壁なんて存在していないみたいに、彼と僕は見つめ合った
目が合った瞬間、彼の仏頂面が解け、優しい微笑みを浮かべている
そのギャップに僕の心は囚われてしまった
彼が僕にだけ見せてくれた緩んだ表情に、僕の心は打ち上げられた
「うん。いい目をしている」
彼が頷きながら言ってくれた言葉が嬉しかった
褒めて貰えたんだって思って、ついぐるぐると泳ぎ回って嬉しさを表現した
仲間が僕のことを憐れむような目で見てきたけど、そんなの関係ない
僕は彼に恋をしている
彼の気持ちはわからないけど、他の仲間よりは少しは想ってくれているんだと思う
新しく連れて来られた場所は、元々いた海よりもずっと狭い
でも、ここには色々な生き物が一緒に住んでいる
前はみんな同じ仲間しかいなかっただけに、見たこともない人と一緒にいれて楽しい
縞模様が鮮やかで、ヒゲの長い人
真っ黒な姿に近づくと刺されそうなトゲトゲがいっぱいの人
ペッタンコの身体で、地面に隠れている人
鮮やかなピンク色の鱗が綺麗な大きな人
本当に、今まで会ったこともない生き物がこの小さな世界に沢山いる
僕みたいな地味な青緑の混じった銀色の鱗に、黄色いヒレがあるだけの特徴のない奴、きっとすぐに飽きられてしまうんだろうな…
もっと派手で綺麗な尾鰭があればよかった…
誰の目にも止まるような、色鮮やかな鱗があればよかった…
求めても、ないものは仕方ないけれど…
ガラスに隔てられた世界から彼を見つめる
まだお昼前なのに、たくさんの人が訪れていた
彼は忙しそうに立ち回り、お客さんを無表情のまま相手している
一言二言、会話はするもののすぐに黙って作業する姿がカッコ良くて、ついつい魅入ってしまう
「なぁ、お前もしかしてあの人間に惚れているのか?」
縞模様の綺麗な人が僕に話し掛けてきた
「う…うん。初めて会った時は怖かったけど、僕のこと褒めてくれたのが嬉しくって…
やっぱり住む世界が違うからダメだよね…」
自信なさ気に笑ってみせるも、縞模様の綺麗な人は慰めてくれて
「……難しい恋だとおもうけど、想うのは自由なんだし頑張れよ!
まぁ…オレたちの命があとどれくらいなのかはわからないけどな…」
どこか諦めたような笑みを浮かべる彼を不思議そうに見詰める
なんでもうすぐ死んじゃうようなことを言ってるんだろう?
ここは色々な生き物が一緒に居て、新しい世界で…
まだご飯を貰ってないからお腹は空いているけど、きっともう少ししたら貰えるんだと思う
彼は仏頂面で、愛想も良くないけど、きっと優しい人なんだと思う
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