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昼間の喧騒を水の中から眺めていた 行き交うたくさんの人々 温かな食事を楽し気に食べ、彼に「美味しい!」って世辞の言葉を口にしている 「夜はもっと素敵なお料理を食べれるのね」 少し年配の女性が彼に尋ねていた 「ご希望があれば、生簀のモノからお作りしますよ」 彼の低い声が心地良い もっと彼の声を近くで聴きたいけど、僕と彼とでは住む世界ぎ違い過ぎる だから、今はこうやって眺めているだけでもいい 時々目が合うだけでもドキドキする 彼も、僕のことをほんの少しだけでも想ってくれてるといいな… 夜になると来ていたお客さんの雰囲気はガラッと変わった お昼間の喧騒はなくなり、どこか落ち着いた雰囲気を醸し出している カウンターに座るお客さんは、高そうなスーツを着た人が多く、お酒を嗜みながら静かに食事をしていた 「やはり大将の腕はいいね。一つ一つ丁寧だからこそ、この味が出せる」 偉そうな雰囲気のお客さんだけど、彼が褒められているのが嬉しかった 彼は、黙ったまま軽く会釈をしただけだったけど、いつもより少し機嫌が良かったのを僕は見逃さなかった 良かったね キミが嬉しいとなんだか僕も嬉しくなっちゃう 水槽の中を縦横無尽に泳ぎ回っていると、大きな身体に、ピンクの綺麗な鱗の人とぶつかってしまった 「ご、ごめんなさいっ!」 「……気を付けろ。まぁ、そう言っても此処に来た時点でどうなろうがどうでもいいが…」 全く覇気のない彼に「どうかしたの?」と声を掛けてみる でも、ただただ溜息を吐くだけで何も答えてはくれなかった 「…時期にわかるさ…オレもお前も、時期に……」 彼はそう行ってゆっくりと泳いで行ってしまった 僕は彼の背をただ見つめることしかできなかった 彼があんなことを言っていた理由はすぐにわかった 水槽の中に大きな網が入って来て、僕たちを追いかけてくる 僕は捕まりたくなくて必死に泳いだ 網が入って来れない狭い場所に潜り込んで、じっと息を潜めて過ぎ去って行くのを待つ 水槽内に響く悲鳴と逃げ回っている人の波を身体で感じた やっとあの網が水面に戻っていくのを見てホッと息を付いた 「え…ぁ……」 でも、網の中に動き回る人がいるのが見えて、僕は息を詰まらせてしまった 縞模様が綺麗だった彼 僕の恋を応援してくれていた彼が、網の中にいた 「…頑張れよ」 全てを諦めた顔の彼と目が合った瞬間、小さくそう言っていた気がする すぐに水から上げられてしまったせいで、本当にそう言っていたのかはわからない でも、そんな気がした 彼を見たのはそれが最後だった
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