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夜が更けてもご飯は貰えなかった
お腹が空いて、寝ていても目が覚めてしまう
今日見たあの光景が頭から離れない
あの白くて大きな網に捕まったら、もう二度と戻って来れない
彼がどうなったのかはわからないけど、怖いところに連れて行かれてしまったんだって本能が訴えてくる
「眠れないのか?」
ピンク色の鱗の彼が静かに話し掛けてくれた
僕は小さく頷いて、彼の側に寄り添った
「ここに連れて来られる前にも、あれと似たモノに捕まったんだ…
僕は運良くここに連れて来て貰えたけど、また捕まるのは怖い…」
微かに震えながら、今の気持ちを言葉にする
彼は何も言わなかったけど、きっと同じことがあったのか、ただ静かに僕の弱音を聞いてくれた
彼に会いたい
会って、褒めて欲しい
彼の笑っている顔を見てみたい
ガラスに隔てられた世界に想いを馳せ、静か過ぎる闇の中でそっと願った
朝陽と共に、室内の電気が灯される
彼が来たのかと、そっと物陰から隠れるように外の世界を見ていた
知らない黒い前掛けをした人が2人、何やら大きな箱を抱えて入ってきた
彼が調理する場所に置かれた荷物
ふと、一人と目が合ってしまった
「コイツ、自分が食われるってわかってんのかね?」
ケタケタと笑っているおじさんの声がなんとなく怖かった
僕が食べられる…
確かに、この世界は弱肉強食…
大きな身体の魚にいつ食べられてもおかしくない
でも、僕がいた海は同じ仲間しか居なかったから平和だった
そして、ココにいる皆んなも優しい
大きな身体の人も、僕よりも小さな身体の人も、平べったい人も、皆んな優しかった
「あ、おはようございます。今日は何か良い品がありますか?」
扉の開く音と共に彼が入ってきた
僕をじっと見ていたおじさんは、興味が失せたように彼の方を見てニッカリと笑みを浮かべている
「今年のきゅうりは出来がいいぞ。ワカメとタコで酢の物にするのもいいし、味噌で食っても美味い」
箱から次々と取り出される瑞々しい野菜たち
彼もそれを見ながらほんの少しだけ口の端が笑っているように見えた
またお昼が近づくと、たくさんのお客さんがやってくる
ココに来て3日目、お昼ご飯を食べにたくさんの人がやってくるんだということがわかった
みんな彼が作るご飯が美味しくて、ニコニコ笑みを浮かべながら食べているのを知った
夜になると、水槽の中の仲間が少しずつ減っていく
あの網に捕まると、彼に殺されることを知ってしまった
仲間が食べられている姿を見てしまった
僕はただ怖くて、物陰に隠れて見付からないことを祈るしかできなかった
大好きな彼だけど、怖くて仕方ない
いつか僕も皆んなと一緒で、彼に殺されるんじゃないかって…
知らない誰かに食べられるんじゃないかって…
部屋の電気が消えるまでビクビクと怯えるしかなかった
ここに来てどれくらい経つだろう
ピンク色の鱗の人も、黒くてトゲトゲがいっぱいの人も、平たい人も居なくなった
新しい仲間が入って来たけど、僕より先に消えていく
みんなの叫び声や悲鳴が、頭に残って消えない
真っ暗なった水槽の中で、みんなの「助けて!」って声だけが、僕の耳にこびり付いて離れなかった
ポツンと一人だけになった水槽の中で、僕はただ一人、彼に殺される日を待った
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