餞別

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 互いに深く謝罪をした後、そろそろと席に戻り、静かに食事を再開する。 「・・・・・・」 「・・・・・・」  なんとなく気まずいので雰囲気を変える為に話を戻すことにした。 「それにしても、なんで身体中の傷が無くなっていたのかが謎だなぁ。俺昔からそんなに治りが早いとかは無かったんだけど」  不思議そうに首を傾げる俺に対し、ミリアは何か心当たりがあったようで、「あっ」と声を漏らす。頭上に!マークが見えるようだ。 「それはきっと、村長が調合したお風呂だからじゃないですか?」 「んえ? なにそれ?」  薬の調合はよく聞くが、お風呂に調合なんてあるのだろうか? 確かに村長さんただ者ではない雰囲気あるしな、ありえない話ではないのか? 「村長は昔偉い人だったみたいで、色々と魔法とかも使えたみたいなんですけど、本人はその話をしたがらなくて。実際村長が魔法を使ったところを見たことがある人なんて、村には多分居ないんじゃないですかね?」 「じゃあミリアはそれをどこで知ったんだ?」 「私は、母が昔教えてくれたんです。村長は凄い人なのよ~って」  ミリアは昔を懐かしむように目を細め、うっすらと微笑む。 「その、ミリアのお母さんって・・・・・・」  生活力の高さなどから大体予想は付いていたのだが、俺は聞く。 デリカシーが無いかもしれないが、ここでしっかり聞いておくのはこれからの仲間として大切なことだと思う。 「もう、数年前に他界しちゃってます。母だけでなく、父も。二人とも身体が弱くて」 「・・・・・・そうか。ミリアは本当に強いんだな」  少し眉こそ下がるが、しっかり俺の目を見て答えてくれる。 おそらく自分の中でけじめがつけられているんだろう。 程なくして、二人ともご飯を食べ終わった。 「ごちそうさまでした! 美味しかったよ」 「ありがとうございます、お粗末様でした!」  両手を合わせてご飯に対するお礼を伝える。 お皿を片付けようとしていたら、ノック音の後に村長さんが入ってきた。 「お、丁度良かった。そろそろ朝食が終わるところだと思ってな」  そういえば村長さんが何か言っていた気がする。 「ちょうど今、食べ終わりました」 「そうかそうか。それじゃあ勇者殿、お主にも餞別をやろう。ミリアは少し外してくれるか?」  そうだった。何か餞別を戴けるんだった。 短い間に色々と起き過ぎてすっかり忘れていた。 「わかりました! 片づけは任せてください」 「すまないミリア、ありがとう」 「いえいえ」  ミリアが食器をトレイに乗せて部屋を出ていく。 ミリアが出ていくのを確認した後、村長さんと向かい合った。 村長さんの右手には、何やら大きめの鞄。いったい何が入っているんだろうか? 「さて、勇者殿。渡す前に一つだけ質問を・・・いや確認をさせてくれ。お主は、魔王軍をその手で倒すのであったな? その意思は本物か?」 「!?」  普段優しそうな村長さんの目つきが真剣な、鋭いものへと変化した。  村長さんから目が離せない。 本当にどこまで知っているのか、この人の表情からは全く読めない。 (正直、まだ心の中では“王の命令で”嫌々旅していると思っているし、“魔王なんか倒せない”とも思ってる。今の旅には俺の意思は無い。でも・・・・・・)  “種を蒔いたなら、実るまで“  農家として腕を振るっていた頃の俺の 口癖だ。目を逸らさず、ハッキリと 「はい、本物です。俺は、俺の意思で魔王を討伐します」  俺は嘘をついた。 が、ただの嘘ではない。 嘘をつくと同時に、覚悟を決めたのだ。 「何のために?」 「勇者になるためです」  そう、嘘を本当にする覚悟。嘘を黙ったまま本当にしてしまえば嘘にはならない。 俺の発言を聞いた村長さんは、暫く沈黙した後、再び笑顔に戻り、大きく笑った。 「はっはっはっは! これは良い、傑作だ。既に勇者であるお主が勇者になるために魔王を討伐か。実に面白い」 「あ、まあ確かにそっそうですよね」  こうして聞くと、確かにおかしな話だ。 勇者から生まれていたとして、何も成し遂げていなければ勇者とは言えないだろう。それはただの子孫に他ならない。 逆に言えば、勇者から生まれていなくても行動さえすれば勇者になり得る。勇者とは読んで字の如く勇ましき者。  王からの特命を受け、今平和の為に行動している俺は他人からすれば勇者だが、そこに本当の俺の意思が無い為、俺は勇者じゃない。事実何も功績などない訳だし。 だから俺は今、村長さんに自分の口で、意思で発言することで勇者になる道を選んだ。 まあこの場合は、勇者になることというよりは、を選んだが正しい。  嘘は、嫌いだからな。 勇者になる事を選んだがそれも自分の為。この選択をしている時点で他がために剣を振るう勇者様ではないのだろう。  何とか村長さんに認めて貰え、話は進む。 「よし、それではお主に餞別(せんべつ)を渡そう」 「ありがとうございます!」  俺の注目は、鞄の中をゴソゴソとしている村長さんの手元に集まる。 (なんだろう? 戦闘力不足を補えるものとかだったら良いな) 「ああ、あったあった。これじゃよ」 「ですか?」  威力高めの武器を期待していた俺は目を疑う。 手渡されたそれは、武器と言うにはあまりにも無理がある、小さな翡翠色(ひすいいろ)の指輪だった。 中心部には、小さな砂時計のような装飾が施されていたが、中に砂が入っているわけでもなく用途は不明だ。 「うわー、き、綺麗な指輪ですねぇ」 貰っておいて失礼だが、正直ハズレくじだ。 そう思っている俺の心中を察したように、村長さんが話を始めた。 「まあ見た目で決めつけない方良いぞ? この指輪は特殊な魔力を秘めておるのだよ」 「特殊な、魔力?」  もしかして素質が無くても魔法が使えたりするのだろうか!! 「特殊・魔力」という言葉の魔力にワクワクして目を輝かせる。 「あー、きっとお主が思っておるようなことは出来んぞ」  俺の変化を見て何かを察したのか村長さんは、「そんな魔法のような」と、右手をナイナイと言わんばかりに横に振る。 「え、じゃあ本当は何ができるんです?」 「この指輪、お主が勇者として戦闘や鍛錬を繰り返していると、その経験が指輪に伝わりどんどんとその砂時計に溜まっていくんじゃ」 「それで、溜まるとどうなるんですか?」 「単純に言えばパワーアップじゃ。経験を力に変換し、指輪を通して身体能力へと返還される」 「なるほど……」  つまりは戦えば戦うほどその経験が俺の力となっていくのか。 ありがたいっちゃありがたいが、やっぱり武器が欲しかったな。 「これ、微妙な顔をするんじゃない! レアな代物なんじゃぞ?」  しまった、顔に出ていたみたいだ。 というか、レアだって? 「そんな貴重な感じはしないですけど……」 「流石に年季が入っているからなあ。これは元々勇者様が使っておられたものなのだよ」 「へぇー、そうなんですねえ......え!?」  思わず指輪を二度見する。そんな代物受け取って良いものなのか? しかしまあ、受け取る以外の選択はない。  勇者様もこういうアイテムで強くなっていったのかと思うと、少し自分にも可能性があるのではないかと思ってしまう。未来はまだ明るい。 「まあ使っていたとは言っても勇者様は 「こんなものはゲン担ぎの様なものに過ぎない」 と、これをほぼ新品でんじゃけどな」 「ん?」  ボソッと言ったみたいだが、確かに聞き取れた。 「それって、当時の勇者様と面識があったってことですか?」 「それがどうかしたか?」  疑問。 だとすればこの村長さん、一体何歳だ? 長生きっていうレベルじゃないぞ?  いやしかし、村長さんが幼い頃とかにだったらあり得るのかもしれない。 俺が驚愕しながらも眉間(みけん)(しわ)を寄せていると、村長さんは「そういえば誰にも言っていなかったな」と、けらけら笑った。 「儂はその昔、魔王を討伐した勇者様の仲間の一人だったんじゃよ」 「あぇ!?」  素っ頓狂(すっとんきょう)な声を上げ、俺の目が点になる。 開いた口もふさがらない。 情報量というよりも、情報重(じょうほうじゅう)に思考が停止したのを感じた。
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