シレクス村の少女

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「勇者……です」 「あぁ......そうなんです……ねー。ははは」  重い空気の中。ミリアの視線がゆっくりと逸れていく。 (畜生、やっぱりこうなった!!)  顔熱い!物凄く熱い!! きっと俺は今、ミリアのように炎の魔法が使えるぞ! 熊の魔獣にも勝てるぜ!それくらい顔面が熱い。  それより何よりミリアの気まずそうな笑顔が辛い。「え、なんですかその年齢でまだ勇者に憧れちゃってるんだ。それだけじゃなくて勇者って名乗っちゃうんだ(笑)」みたいな顔はやめてください救って貰ったばかりなのに死んでしまいます。 あぁー痛い痛い助けて手当してくれた相手から致死量のダメージくらってます。 「えっと、職業?肩書き?も勇者なんだけど、名前もそのまま「勇者」なんです、はい」 「……マジですか?」  信じられないといった顔である。まあ、気持ちは痛いほど。今に至っては死ぬほどわかる。 というか自分が倒せる相手にボロボロにされた男が勇者なんて思いたく無いだろう。 「……マジ」  俺はこくこく首を縦に振りながら、オウム返しのように悲しい事実を告げる。 「え、マジ?」 「村長さん!? なんで今!」  このタイミングで村長も、ニュッと部屋に入って来た。というかずっと聞かれてたのか、恥ずかしい!! 「いやなんでってここ儂の家じゃし。それよりも元気が出たようで安心しましたわい」 「それもそうですね……取り乱してしまってすいません」  やっぱ優しい村長さんだ。 「良いんじゃよ。「勇者」なんて誇らしい名じゃないか、似合う男になりなさい」 「村長さん……」  この人に一生着いていきたい、そう思った矢先。 「……ふっ」  村長さん今笑った気がするんですが。 なぜ後ろを向いたんですか? 「村長それはさすがに失礼、ダメで……ふふ」  ミリアも後ろ向いちゃったんですけど?  両手で口押さえてるの後ろからでもバレバレですよ? 肩ものすっごく揺れてますよ??  もう何も言うまい。 そう思った俺は、ひとしきり揺れが治まるのを待った。  後ろ向きで小刻みに震えたりする二人を見ながら三分。やっとこちらへと向き直した。 「やけに、後ろ向くのが長かったですね」 「いやぁ、つい現状とのギャップというかなんというかで……」  人差し指でポリポリと頬を掻くミリアと村長さんが顔を見合わせ、ねぇ?と苦笑いを浮かべる。 「「...ごめんなさい!」」  やっぱり笑っていたみたいだ。やっぱりというか完全にわかってはいたが。 二人は声をそろえて謝罪をしてくれた。 「いや、恥ずかしいですけど迷惑かけていますし全然いいですよ」  ミリアの表情がパっと明るくなった。この子の表情は実に豊かで、正直者なんだろうなあと思う。 「ありがとうございます。あ、夜ご飯も後で持ってきますからね!」  準備してきます!と残してミリアは出ていった。 なんと、夜ご飯まで用意してもらえるとはありがたい。 「この部屋は好きに使ってくれて構わんよ。儂は今日別の場所で寝るからな」 「良いのですか? 本当に何から何までありがとうございます」 「良いんじゃ。勇者殿、」 そう言って村長は パチっ! とお茶目にウインクをしてみせる 村長さんみたいな歳でも雰囲気が出るものだな……いや、え? 「今、なんて?」  そこについてはまだ何も言っていなかったはずだ。思わず取り乱した俺に対して、村長さんは「ああやっぱりか」とでもいうような表情になった。 勘がいいのか、本当は何か知っているのか、どっちだろう? 「はっは、その様子だと当たりのようだ。なに、こんな時期にあの雑木林に近づいて来るなんて、よっぽどの死にたがりかただの馬鹿くらいなものじゃ。それか、がある者、とかな?」 「いや、特別な理由でも突飛すぎませんか?魔王討伐だなんて。普通そんな考え出ませんよ」  この村長さんはやはり何か知っている。 「そうでもないぞ? お主の装備、王国関係か何かのものだろう?」 「それは、はい。王から支給して頂いたものです」 「そうか、その装備をした者どもを少し前に沢山見たんじゃよ。旧魔王城へでも行くような足取りだった」 「それって......」  王が話していた先に派遣されほぼ戻ってくることはなかった国中の腕利き達の事か!  「いや、それだけじゃ魔王が復活しているなんて分からないはずです!」 「なにっ! やはりそうであったか」 「あっ!!」  驚いた表情の村長。 しまった! カマかけられてたか。どんどんボロが出てしまう。 自分で最後は暴露してしまうとは恥ずかしい、まあここまできたら話してもいいか。 「はい、仰る通り。俺の目標は復活した魔王軍の討伐です。このシレクス村には共に戦ってくれる仲間を探しに来ました」 「なるほど。確かに魔王城に王国から向かうならこの村は通る必要がないもんな、そういう理由じゃったか」  ふむふむと納得の表情を浮かべる村長に俺は続ける。 「後、俺は勇者の一族の者です。幼い頃より戦う術を父より授かって参りました。この度は、王直々の特命を受けております」  この発言を聞くと、村長さんはじっと俺の目を見つめ黙り込む。 流石にこんなボロボロの姿では信じてもらえないのかもしれない。 「......」 「あの? なにか?」  暫く見つめた後、村長さんは微笑んでくれた。 「であったか。難儀じゃな、誰か仲間になれそうなものがいるか明日にでも見て回ると良い」 「ありがとうございます! でも、もう候補としてはいます」 「それは......ミリアか?」 「はい、彼女は俺を助けてくれましたし、手当も慣れている。それに強いんです、凄く」 「ほう、わかった。最終決定はミリアに託す、しかし儂から言わせて貰えばミリアは普通の娘じゃぞ?」 「いえ、十分通用する強さを持っていましたよ?」 「そうか? それなら良いのじゃ。今日はゆっくり休みなさい」 「ありがとうございます!」  俺が思い出すのは炎で熊魔獣を焼き殺す彼女の姿。彼女はきっと強力な味方になる!
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