12人が本棚に入れています
本棚に追加
プロポーズ?
村長さんが部屋を出ていき、一人になる。
(遂に名乗ることになっちゃったな。勇者の家系とかのも自分だと言ってしまった手前、完全に後に引けない。強い人、やっぱりミリアにどうにかして仲間になってもらいたいよなー。このまま旅に出ても、あのレベルの魔獣が出てきたらすぐあの世行きだし。ご飯持ってきてくれるまでにどうやって説明するか決めておかないとな)
コンコンコンッ!
不意にドアをノックする音が聞こえた。
「私です、ミリアです!」
「ミリアか、どうぞ!」
お邪魔します、とミリアが部屋に入ってくる。
この子は行動の節々に礼儀正しさが現れていると思う。
「え! もうご飯の時間か?」
「あ、いえ! ご飯はもうちょっと掛かるのでお待ちください。 先程村長が勇者さんから私に大切なお話があるそうだと聞いたもので」
「成る程、わざわざありがとう」
村長さんが先に話をしてくれていたそうだ、手間が省けたのは良いが、内容などはまだ考えていない。どう伝えようか?
「それで、話ってなんですか?」
「そー、れなんだが......えーっとな」
ミリアは真っ直ぐにこちらに見て小首を傾げるようにして聞いてくる。
これからの旅に同行してくれとなんて事、普通に言って来てくれるだろうか?
まだ若いし、もちろん危険は伴うし、勇者である俺は驚くほど弱い。何より年頃の女性が会ったばかりの男と二人で旅って嫌じゃないか? 俺なら嫌だ!
「あの、勇者さん?」
「あ、はい?」
「いやいや、訊ねているのは私なんですが......」
「デスヨネー」
「?」
ミリアは怪訝そうな顔を浮かべる。
しまった、時間をかけ過ぎた。
判断力が無いとみなされても、「こんな頼りないリーダーの仲間になんてなれません」と言われてしまう!早く伝えないと!!
それでいて要点は外さないように......くそ、纏まらない。
ええいっ、どうにでもなれ!
「単刀直入に言う! 俺と一緒に暮らすことになるけど良いか?」
「暮らす、一緒?......ひょえ!?」
ボンッ!
「ん?」
空気が冷気を帯びるのを感じた。
俺、今何を口走った?
ミリアの色白な肌が急激に真っ赤になっていく。今にでもプシューと湯気が出そうな様子は、やかんを彷彿とさせるようで......ああ言ってる場合か!
(確か、俺は......)
必死に数秒前の記憶を遡る。
『俺と一緒に暮らすことになるけど良いか?』
(馬鹿野郎省略にも程があるだろ! しかもどっから話してるんだよ! あらぬ誤解を生む前に弁解しないと!)
「しょ、しょしょれは新手のぷプ、プロポーじゅでしゅ、かぁ?」
「ぷ、プロ!?」
ミリアはわかりやすく混乱しており、プロポーズと受け取ってしまったようだ。
真っ直ぐだった瞳があちこちぐるぐると動き、手も忙しそうにわたわた空を切り続ける。
なんとか、別の言い方をしなくては...!!
「あ、いや、違くて。えっと、この先の俺には君が必要っていうことなんだ!」
「何も違うくないじゃ無いですかああぁ!」
「俺の口の馬鹿ぁ!!」
脳みそが動きを止めているとしか思えない。
駄目だ、俺もパニックで墓穴がどんどん広く深くなっていく! いっそ埋めてくれ!
「そ、そんなだってまだ会ったばっかで、ででですし、しゅこしか、考えさせてくださいいいい!」
「いや待って行かないで!!」
俺の制止は虚しく失敗し、
ミリアはバタバタと音を立ててドアへと走っていく。
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
パニック状態のミリアはドアノブに手をかけ外に出ようとするのだが何故か開かない。
「えっあれ! 開かない!? 閉じ込められた!?」
「いや、それ押し戸だから! 鍵かかってないよ!」
「あ、本当だ! それではまた後でぇええ!!お体お大事にしてくださぁあいい」
バタンッ!!!
......嵐が去っていった。
弁解できなかったのが辛い。
このままでは相当な軟派男と思われてしまいかねない!
「これは、非常に、不味い」
俺は状況整理と現実逃避のため少しだけ横になることにした。
(ああ、終わった......本当に困った)
考えれば考えるほど初手の発言が最大のミスだと後悔する。
過ぎてしまった事は仕方がないが、どう足掻いてもミリアの言う通りプロポーズになってしまっている。良くない流れだ、もしこのままミリアが村中にプロポーズされてしまってというか相談をしたなど考えたくもない。
ミリアはプロポーズの返事として次会った時答えてくれるだろうし、めちゃくちゃ真剣に考えてくれた答えに対して実は間違いでなんて申し訳なさ過ぎる。
どうしようどうしようと頭を抱えながら、ふと部屋に掛けてある時計に目を移す。
彼女が部屋を飛び出してから約二時間が経過していた。
俺が馬鹿なことを口走ってからもう二時間。
「......もうそろそろ、ご飯の時間なのかな?」
深いため息を吐く。
当たり前だがミリアはきっとまだ勘違いしたままだろう。
こういうのは時間が経つほど厄介だ、ご飯を持ってきてくれた時にでも誤解を解いておかなければならない。
しかし、まともに会話をして貰えるだろうか?
そもそも面会拒絶され、違う人が持ってきたらどうしよう。どうしようもないが、最悪だ。
(本当馬鹿! 俺の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!)
感情に任せて頭を掻き毟ろうとしたが、思いの外勢いが良かったらしく、満身創痍の体に稲妻のような痛みがが走った。
現在、俺は身動きも取れず誤解も解けないまま、ひたすら無心で天井と睨めっこを続けている。
(ああ、終わった......本当に困った)
部屋に掛けてある時計に目を移す。
彼女が部屋を飛び出してから約二時間が経過していた。
俺が馬鹿なことを口走ってからもう二時間。
「......もうそろそろ、ご飯の時間なのかな?」
深いため息を吐く。
ミリアはきっとまだ勘違いしたままだろう。
こういうのは時間が経つほど厄介だ、ご飯を持ってきてくれた時にでも誤解を解いておかなければならない。
しかし、まともに会話をして貰えるだろうか?
そもそも面会拒絶され、違う人が持ってきたらどうしよう。どうしようもないが、最悪だ。
(本当馬鹿! 俺の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!)
感情に任せて頭を掻き毟ろうとしたが、思いの外勢いが良かったらしく、満身創痍の体に稲妻のような痛みがが走った。
「あがぃ!いだだだだ!」
もう本当ボロボロだ。
来てくれなかったら、最悪明日まで誤解は解けないかも知れない。
そんなことを考えている時だった。
コン、コンコン
「!」
少し緊張したような、優しく控えめなノック音が部屋に響いた。不意だった為、、心臓が飛び跳ねる。
「ど、どうぞ!」
声が裏返ってしまった。
やはり俺も意識してしまっているみたいで、鼓動も段々と勢いを増していくのがわかる。
キィ......。
「えと、こんばんは勇者さん。その、晩御飯......できました」
入ってきたのはミリアだった。
若干頬を赤らめ、恥じらうようにゆっくりと入ってくる。
良かった、なんとか会話はできそうだ。
ベッドの横の小さな机に美味しそうなシチューを乗せたトレイを置くと、ミリアに隙ができる。
今だ!今しか、チャンスは無い!!
「あ、あぁありがとう、えーっと......」
「あ、あの! 先に、ご飯! どうぞ!」
何かを察したように話を逸らそうとしてくる。
「え、さっきの事なんだけど......」
「冷めて! しまい!! ますので!!!」
「は、はい」
あまりの迫力に思わず敬語になってしまう。
というか、話を阻止されてしまった。ご飯が冷めてしまうという理由は最もなのだが。
俺の手をジーっと見つめて何か気づいたようにミリアは呟いた。
「あ、手......痛みますよね。一人で、食べられますか?」
「だ、大丈夫! ミリアの手当てのおかげでそれくらいはできるから!」
本当は腕を動かすたびにズキズキするのだが、あの発言の後に食べさせてもらうとかなんて事ははあってはならない。決して。
「それじゃあ、頂きます!」
「どうぞ、召し上がってください」
ほくほくと湯気が上がり、一口サイズの肉や野菜が沢山入ったシチューをスプーンで掬い、口に運ぶ。
「美味い!」
「あ、よかったです!」
ミリアはホッとしたように笑い、嬉しそうに手を叩く。
疲れた身体に優しい牛乳のまろやかさやコクが染み渡る。野菜も肉もそれぞれにしっかり味が付いていて、ガツガツとスプーンを運ぶ手が加速していく。
「にしても本当に美味しい、これをミリアが?」
「はい、昔から母に仕込まれてましたので」
「へぇ、ミリアは凄いな」
感想をありのままに伝えた。
ただそれだけなのだが、ミリアは顔を再び真っ赤にして俯いてしまう。
「いえ、そんな......別に、お嫁さんに向いてるとか......」
ん、あれ? そんなこと言ってないぞ?
「ミ、ミリア......さん?」
「もう、からかわないでください!!!」
「ふごぉ!?」
訂正しようと思った矢先、照れ隠しなのかシチューの隣にあったパンを口に無理矢理押し付けられた。
「と、とりあえず先のことは食べてから話しましょう!」
「ふが、もご(息できない、死ぬ)」
押し付ける手が強くなり、目の前にパンを食べることだけに意識を集中しないと死ぬ、ていうかミリアさん力強!! 確実に殺される。
カッ!と目を見開き、やっとの思いで完食する。
ご飯ってこんな命がけでしたっけ?
「はぁ、はぁ。ごち、そうさまでした......美味しかったです」
「お粗末様でした。そ、それでですね......さっきの件なんですけど」
「は、はい!」
食べ終わった瞬間に、まさかミリアから切り出して来るとは思ってなかった俺は、またもや敬語になる。
最初のコメントを投稿しよう!