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豊作というか宝作というか
ザクッ、ザクッ......
照りさす太陽の光に挑発......いや、鼓舞されながら今日も力一杯鍬を振り下ろす。
「穀物を育てるのはもちろん楽しいけど、何よりこの最初の工程がもうたまらないな。ゼロから土台をつくるっていうのがさ」
畑仕事に着手してから数年。
両親が病に倒れてから数年。
熟年の農夫さん達には敵わないが、この若さにしてはなかなかの手つきだと思う。
「ふぃー、いい汗だ」
首に巻いていたタオルで汗を拭き取る。
流れ出る汗は自分が働いた証拠だ、最初こそ気持ち悪がっていたが今では達成感を味わう材料となった。
「もうひと踏ん張りで休憩だな。次はこっちの方を耕すか。待ってろよトマトちゃん!」
若干疲労した腰をトントンと労いながら気合を入れなおし、「セイッ」と力一杯に鍬を振り下ろす。
ガギャッ。
聞き覚えのない音だった。
鍬に何か固いものが当たったのだろうが、あまりにも硬く手に痺れが残る。
「いててて、でかい石かなんかが埋まってたか?」
不思議に思い、まわりの土を若干痺れた手でかき分けていく。
出てきたのは棒状のような部分で、ある程度かき分けたところで引っこ抜いてみた。
「よいしょぉっ!お、重い......うん?」
手に感じる重さとその見た目に眉を寄せる
「これは、多分だけど剣、だよな?」
農家でもそれくらいはわかる。多分だが。
わからないのは何故こんな地面に埋まっていたのかだ。
見たところだいぶ古びてはいるが、重さとかからとか、触った感じから何というか上質感がそこはかとなく漂っている気がして……。
「軽く水で土落として、質屋に持っていけば」
そう、売れそうなのである。
欲に目をくらませた俺は、作業を早々と切り上げ剣を片手に持ち、その重さなど感じさせない程足速に質屋へと向かった。
「おっちゃん俺だ、暫く!」
「うおなんだお前か、珍しいな。って、馬鹿!あぶねぇ!」
大きく手を振って店に入るが開口一番罵声を浴びせられた。
質屋のおっちゃんとは、両親が仲良く幼い頃良くして貰っていた。久しぶりに顔を出す分歓迎されると思ったが、そうでもなかった。
「え?」
「刀身剝き出しの剣を片手に振り回して盗賊以外の何だってんだよ!」
「……あ」
ぐうの音も出ない正論である。
善は急げと土汚れを洗い落としてそのまま来たので、何かに包むという考えが無かった。
「いやまあそれはもういいだろ、それよりこの剣見てくれよ!」
早く結果が知りたいがために急かす。もしただのガラクタならすぐ切り上げた畑仕事に戻らなくちゃいけない。
「そう急かすなよ、まあどうせお前みたいな貧乏農民が持ってくる物なん、て」
剣を手に取って見て数秒。おっちゃんは動かなくなった。
「どうしたおっちゃん、そんな牛車に轢かれたような顔して」
突然顔が真っ青になったおっちゃんを煽ってみるが反応が無い。
もしかして肥料にと、土と混ぜていた馬糞がついてたのだろうか?一応ちゃんと洗い流した、はず。
「おいお前、これ一体どこで」
「そんな声震えてどうしたってんだよ」
「いいから質問に答えろ!!」
「耕したら出てきた」
「……は?」
「いや本当に」
ありのままを伝えたが、まだおっちゃんは牛車に轢かれている。
「何でもいいけどそれ買い取って貰え「あったり前だ馬鹿野郎! 」声でかい怖い」
食い気味に答えたおっちゃんが、聞いてもいないのに剣について興奮気味に語りだした。
「これ、これはなぁ! 昔魔王を倒した勇者様が使っていたとされている剣でな、それはもうきっちょーーなんだ!ほらこの刻印!!御伽話にもあるやつだ!」
「で、いくら?」
「話を最後まで聞け!!!」
「へい」
俺とおっちゃんとの温度差には理由がある。
勇者の剣。それが本当なら凄いとは思うが、何十年も前の勇者が使っていた剣が農民のトマト予定地の下にあるなんて考えられない。
つまりはあまり信じていないのだ。おっちゃんも本物を見たことがないと思うし誰かのイタズラの可能性が高い。
多分妄言吐いているんだろうななんて思ったりもしたりする。
それでも少しでもお金に代わるなら何でもいい。
今は、金だ。新しい肥料とか農具を買うんだ。
「ま、まあ高額なのは間違いないだろうが、物が物だからな。一旦王城へと文を送ってみよう、王国が買ってくれれば俺のところで売るよりよっぽど高額になるぞ」
「でも文とか手続きとかめんどくさそうだし……」
「そこは全部俺がやってやる、代わりに何割か手数料として俺にくれればそれでいい」
「んー。じゃあ、それで」
「よっしゃあ!!」
おっちゃん、俺より喜んでないか?
今日は好きなもん食うぞとか小躍りしながらはしゃぐおっちゃんを後にし、畑に戻った。
――数日後、おっちゃんが出した文の返事がすぐ届いた。何故が俺の家に。
何やら難しいことも書いてあったが内容を要約すると、「件の剣は贋作などではない、本物だ。高値で買おう。あと入手した経緯などを本人に直接聞く必要がある為、明日の正午に王城まで剣を持って来たれり」的な感じだ。
なんというか、なんというか
「面倒くさいことになってしまった」
憂いを含んだ大きなため息が出る。あぁ行きたくない。
出不精。というわけではないが、どうも王城とか堅苦しそうな場所に行くのが苦手だ。というか王城って一般農民が生きてて入ることないだろう。それに、俺の住んでいる場所から王城までは結構時間がかかる。正午に着くなら朝に出るか、高いお金を払って馬車に乗らなければいけない。
「おっちゃん。許さん」
よくよく考えれば文を送っただけで金を手に入れれるおっちゃんに腹が立った。頼んでしまったのは俺だから、何も言えはしないのが悔しい。
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