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エメラルドグリーンの吐息
とある雪の国では奴隷は悪しき物を秘めているとされ、悪しき物を溜め込んだ一定期間使用された奴隷は纏めて殺処分する風習があった。
奴隷はみな口を揃えて言う。
「私たちはまだ働けます!悪しき物なんて取り憑いてません!お願いです殺さないでください!」
まだ十代かそこらの奴隷達に司祭は言う。
「しっかり感じるぞ。お前達からの貴族からの扱いの怨み、立場の違いから来る嫉妬。悪しき物の正体じゃ。もう貴様らは奴隷てはない、単なるケダモノだ」
この儀式は、要は下克上を防止するためのプロセスに過ぎない。奴隷はこの日を避けるため、献身的に尽くした。逆に不貞腐れた者も居たがそういうものは早々に処刑された。
その早々に処刑される面々の中に魔女と呼ばれる女の子が居た。彼女の一言一言は、人を勇気づけたり、癒したり、絶望の底に叩きつたり、途方もなく怒らせたりするという。
その人心掌握と言っていい能力を危険視した貴族達は彼女を殺す事に決めた。
番がやってきた者は、首吊りの石段に立たされ、首に縄を掛けられる。
処刑人がレバーを引くと足場が開いて、首吊り死体の一丁上がりという訳だ。
彼女の前の男の子は泣きながら恨み言を叫んで、そのままその途中で気道を圧迫されて押し黙る。死の沈黙だ。
そしてとうとう魔女の番が来た。またしても処刑の過程が繰り返される。
処刑人がレバーを引くと彼女はダラリとぶら下がる。
すると歌がどこからともなく聞こてくる。
魔女の首に掛けた縄はくい込んでおらず、宙に浮いている様な状態で歌を歌っている。
貴族達は恐れ戦き、奴隷達は歓喜の声を上げた。
貴族の一人か言う。
「魔女の足元に薪をくべて火を灯せ!」
この国において火とは清浄なものとして扱われ穢れを削ぎ清め天に返すと言われている。
首吊りで死なない程に穢れに支配された者が稀に出る。火炎はその時の為の貴族達の奥の手だ。
薪が放り込まれその上から油が注がれる。着火。
火はどんどん大きくなり魔女を飲み込んだ。
だが歌が止む気配は無く、火炎と共にその中でより大きくなっていく首の縄が燃え尽きた時、炎を突き破ってエメラルドグリーンの宝石が生えた翼の生えた魔女が方々を見下ろして貴族達に制裁を加えた。
貴族達の衣服が燃え始めたのだ。
悪事に手を染め、悪しき物が蓄積していたのは貴族達の方だったのだ。
この日を境に奴隷制度は解放され、他人を見下すと火刑に処されるという、寓話めいた言い伝えがその国に言い伝えられた。
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