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第1話
鉱脈師がたまたま魔素の鉱脈を掘り当て降り注いだことが魔法のはじまりだと言われている。
魔法が徘徊した現在では魔法庁が魔法魔獣魔素その他の管理を統括していた。
古くからこの街には魔法が徘徊している。
それを集める役割が係官。
条件が与えられた中で合格したもののみその身を捧げることを許される。
先日誕生日を迎えた白川は第七部隊の面々が活躍する姿にうっとりと見惚れていた。
黄色い歓声の中心地にいる隊員がこちらを振り返りウィンクを放ったことで一段と声が上がったところで弾き出されるように画面が閉じた。
「いつまで油を売っているつもりだ」
画面の中にいた男に似た声が降り注ぎ間の伸びた返事をして指示の元、本を並べていく。
魔法防衛魔法管理官。
同じ魔法庁に配属されたはずなのになんと地味な仕事なのだろう。
花形の隊員から選考を外された白川はため息を吐いていた。
査定により希望の職には就けず当てがわれたのは、魔法館職員だった。
正直、泣いた。
けれどこれが私にとって選ばれた場所だというのならと腹を括って仕事に向き合ってきたつもりだった。
「桃花さんはどうしてこちらに?」
彼が吐いたため息が礫となり唇を縫い付けていく。
「解いてほしいならばさっさと仕事を片付けろ」
上司の桃花は名前に似合わず無愛想でふたりの間に会話はなく与えられた業務をこなすのみ。
正直これで給料をもらうは気が引けてしまう。
もしかして私、お荷物なのかしら。
確かに魔法は使えないけれど、それを伸ばし成長する場でもあると思うのだけれど。
魔法館職員としての仕事はとてもたおやかで、時々こうして一言二言やり取りをするくらいで基本的には本を並べて一日が終わることもある。
魔法によって幾重にも防化壁が張られた本館は私と桃花さんが管理を任されている。
その昔、気軽に来館する人々で溢れていたが魔法が暴れて崩壊しかけたために今では立ち入り禁止となっていた。
古い石造りの建物を改築し開けた階に本棚を詰め込んでいる。
静まり返った館内にブザーの音が響き中央のエレベーターが来客を知らせていた。
「ご利用ありがとうございます」
少ない業務の中で、時折足を運ぶ来館者と返却のやりとりをする。
「新人さん?」
少し前までは開いていたらしいが、アクシデントが起こりこのあたり一帯は封鎖されていると聞く。
それでも時折来館者があらわれ、桃花さんはそれをよしとしない。
「白川」
「はい」
「地下に行ってこい」
「はい?」
客人の対応がある。
「アウロディーテ」
彼に呼ばれた植物の蔓がどこからか這い出して椅子を型取っていく。
「白川を頼む」
膝裏を押されたことで蔓状の椅子へと座り込み裏へ裏へと運んでいく。
桃花は基本的に危ない人に関しては関わりを持たせないようにしているのを白川は理解していた。
裏側には簡易的な住居が作り上げられなにかあればすぐに駆けつけられるようになっていた。
今は私の避難場所のようになっているけれど。
「あなたが気にすることはないのよ、アウロディーテ」
カップに注いだお茶を蔓が遠慮気味に差し出してきた。
アウロディーテは魔法植物科の長命種でその蔓の長さから換算して彼女は数百年は生きているらしい。
栄養素の飴をあげると、蔓についた蕾のいくつかが嬉しそうに開花していた。
お礼のように一輪を受け取ったところで開け放たれた窓から吹き込んだ風に寄って花びらが舞い上がっていた。
「今日はもう終わりだ。帰っていい」
「先程の方は……」
「お前は気にしなくていい」
端的に切り捨てると窓枠を乗り越えた風と花びらに背中を押され壁にできた扉の先に押し出されると下へと向けられていた重量が前方へと代わり体が宙に浮いて前方へと倒れ込んでいた。
スプリングが軋む音にしたたか顔面を打ち付け今しがた落ちて来た方を仰ぎ見る。
「しばらく休め。出勤日はこちらから連絡する」
「は? いや、待っ」
天井にできた扉の向こう側から降ってきた声はこちらの言葉を聞く間も無く閉められ粒子となりやがて消えた。
思い出したように扉から続いて降ってきたなにかが中途半端に上体を起こした姿勢の顔面に直撃して白川はベッドへと押し返された。
「いったー……」
半泣きになりながら確認すると自身のコートと鞄だった。
退かした反動で何かが床に転がった。
「……これは?」
手を伸ばし確認するとそれは分厚い本だった。
ラベルからみるに図書館のものだ。
どうしてこんなものが私の鞄に?
防御魔法が発動するから手続きを踏まない限り持ち出し不可のはず。
不正に館外に出た場合はアウロディーテが対処することになっている。
彼女の栄養分にされるとかなんとか。
第一この本を手にした覚えもない。
これは魔法庁のもので、なにかあればクビだけでは済まされないからだ。
鞄に入れると外套を手に取ってベッドから飛び降りた。
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