八回の男

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「三年目ですけど」 「三年目てっ! お前実質、今年一年しか活躍してないやんか?! なぁ、おい、お前来年は一試合も投げられへんねんぞ? ほんでそのままクビやねんぞ? 誰がセレモニーやってくれんねん? ほんで、そんなんされても恥ずかしやろ? 」  確かにそうだ。別に恥ずかしいとは思わないが、たったの一年、中継ぎで活躍しただけの選手を盛大に送り出すほど、プロ野球という世界は優しくない。 「いやぁ、何やかんや言うて、俺がお前に投げさせ過ぎてたんは事実やからなぁ、俺もお前の事は気掛かりで、何回か色々試してみたりはしたんよ」  一試合あたりの投球数を制限してみたり、登板数をぐっと減らしてみたり、一試合も投げさせないパターンもあったらしい。 「(なん)やったら逆に100登板させた回もあったんやで? 十二回あったらまぁ、色々試せるからなぁ。  せやけど、どれやっても結局、結末は同じやった。お前が引退するタイミングと理由は一緒や」  大阪から、船で行っても電車で行っても車で行っても、結局東京へ着く事は変わらない。  子供の頃ドラえもんに教えられた理論だ。  それが今、まんまと芝自身に当て()まっている。 「ちょっとでも何か変わるかと(おも)てんけどなぁ … あかんかったわ … 子供の誕生日が二三日ずれる事はあっても、それだけは変わらんかった … 」 「いや、それあかんでしょ!! 」  何気に挟み込まれた聞き流せないエピソードに的確に突っ込んだ芝に、谷川監督は神妙な表情になって言葉を付け加える。
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