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「ここ一週間がヤマだそうよ」
がん告知から3年。とうとう末期症状になり、病院のCIC室に隔離された。ガラス張りの滅菌室で寝ていた俺は、面会用のマイクを切り忘れた看護師の会話を聞いてしまった。
そうか…… 俺は目指していた山々をまったく越えられず、人生最後の山場を迎えるのだな……
そう考えていると、CIC室にビニール製防菌スーツを着た医師が二人入ってきた。
「谷さん、喜んでください。ウチの院長が手術してくださるそうです。ウチの院長は、東大の理三を首席で卒業されて、数々の世界外科アカデミーの試験を満点でパスした優秀な方なんですよ。すぐに先代院長の後を継いだので、普段は診察や手術などはしないのですが……」
主治医がにこやかに、後ろの男を紹介した。
「やあ久しぶり。昨日偶然、重体患者のカルテで君を見つけてね。僕の大事な友達の試練に、立ち会うことができた」
十数年ぶりに会った、俺の超えられなかった男が、俺のレントゲン画像を指差して語った。
「君の腫瘍の、こことここにメスを入れれば君は直るよ。大丈夫、僕の張ったヤマを信じて、任せなさ~い」
山尾春雄のヤマは、人に教えるときは外れるのだが、今回はどっちだ?
信じたい気持ちはやまやまなのだが、俺のヤマ勘は山のような不安を感じていた。
(了)
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