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3.
応接室の前に立つと、中に人の気配がある。この先に……先輩がいるのだ。
ミネットはふぅとひとつ深呼吸をして、自らその扉を開けた。室内の視線が一斉にこちらを向く。
「え……」
誰かが息を呑む。カチャン! と父上がティーカップを落とした。
「ミ……」
「お初にお目にかかります。フルヴィエール家の長女、カルミナでございます」
ミネットの名前を呼ぼうとするから、慌てて被せるように挨拶した。カーテシーで足を挫きかける。難しいなこれ……
「……とても可愛らしいな」
「そう言っていただけて光栄ですわ、レヴリー様」
父は表情こそすぐに取り繕ったものの、今すぐ頭を抱えたいと顔に書いてある。母は「あらあら」と言わんばかりに扇子で口元を隠していた。
いきなり息子が女装して現れた上、娘の名を名乗っているのだ。我ながら意味がわからないよなぁ。
リヨン男爵と夫人は数秒ポカンとしていたが、小声で「……本当にこの子があなたの好きな子なのね?」とレヴリー先輩に確認し、「ええ、もちろん」と答えたのでホッと息を吐いていた。
しっかり聞こえていたミネットは、細い針で刺されたように胸がツキンと痛むのを感じる。先輩は本当に、カルミナのことが好きなのだ。
リヨン夫妻と改めて挨拶を交わし、一見平穏なようで混沌とした場は、親同士で婚姻の詳細を詰めていくこととなった。
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