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 本当は妹と結婚してしまう現実を認めたくなかっただけだ。先輩が婿に来てミネットが卒業したら、夫婦生活を間近で見ながら生きていくことになる。    想像するだけでつらくて、勉強が手につかなかった。食欲も落ち、やせっぽちの身体はさらに貧相になった。 「尊死……」 「え?」 「いや、ミネットにも寂しいと思っていてもらえて安心した。俺のローブは君のためにある。もちろん貰ってほしい。……これも」 「えっ! 監督生(プリフェクト)のバッチは駄目ですよ!」  (はやぶさ)寮の象徴であるロイヤルブルーのローブを脱いだ先輩は、胸につけていた金色に輝くバッチをそのままに、ミネットへ差し出した。    ミネットが入学した翌年から寮の監督生であり続けた先輩。左胸の上にいつもあったバッチは、二人の間で陽光を受け煌めいている。  名門魔法学校の監督生バッチは、家によっては代々受け継ぎその数を競うほど価値のあるものだ。思い出のローブとは訳が違う。 「大丈夫。ミネットに持っていてほしいんだ」 「……いいんですか?」  駄目だと自分に言い聞かせても、そんな大切なものをあげたいと思ってもらえたことが嬉しい。学年を越えて仲がいいと感じていたのは自分だけじゃなかったのだ。  内に抱える意味がミネットと先輩では違うけれど。妹のためにも、先輩のものを貰うのはこれきりにしよう。  今日で最後だと強く決心して、ミネットは先輩のローブを受け取った。
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