109人が本棚に入れています
本棚に追加
成長と同時に買い替え、綺麗に手入れもされているけれど、先輩が数年使ったはずのローブだ。長さ以外自分のものと同じはずなのに、手の中にしっとりした重みと、先輩の優しい匂いを感じる。
先輩の存在を一番に感じられるものをもらってしまった心地だ。目の奥がじわっと熱くなる。
だめだ、やっぱりつらい。悲しい……。ミネットは浮かんでくる涙を堪えようと必死になって、つい言わなくていいことまで言ってしまった。
「あ……ありがとうございますっ。レヴリー先輩、卒業したらすぐご婚約されるんですよね?」
「っ……えっ!?」
「おめでとうございます。僕、家族が増えるの……嬉しいです。楽しみにしていますね」
「か、家族……」
「では。列車の時間があるので、これで失礼します」
そそくさと背を向け、寮に向かって歩き出す。顔を真っ赤にしてまで耐えた涙がぽろぽろと頬を流れていく。
でも、これでいい。先に泣いておけば、先輩が実家へ挨拶に来たとき、笑顔で出迎えられるはずだ。
夏の終わりを感じさせる涼やかな風が吹いている。ミネットを慰めるように、緑の中で色とりどりの花が揺らめいていた。
最初のコメントを投稿しよう!