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◇
五日後、ミネットはカルミナの部屋で支度していた。身に纏うのは瞳と同じ、勿忘草色のドレスだ。
上品な形のドレスは華奢なデコルテを見せつつ肩から二の腕を隠し、胸元は小花柄のレースで彩られている。腰はキュッと締まっているが、そこからふんわり重ねた生地が足元まで広がっていた。
これはカルミナの合わなくなったドレスで、ヒールを履かなければほぼぴったりだった。ぎゅうぎゅう締められたコルセットが苦しい。
「分かっていたけど、恐ろしく似合うわね……」
「そう? うーん、やっぱり胸元が寂しいなぁ。ま、初めて会うならカルミナがぺたんこって設定でいいか」
「もうっ」
「イテッ」
ぺしりと殴られて、髪が崩れてないかと鏡で確認する。薄化粧をして髪を緩く巻いた、カルミナそっくりの女性が自分を見返していた。
――そう。ミネットは先輩を欺くために女装しているのだ。
あの日ミネットは、提案を呑んでもらうため必死になって説明した。事情を説明するうちにカルミナの表情はみるみる変化し、ぽかんとした表情から思案げに、最後は楽しそうにニヤニヤとしていた。
なにが楽しいのか……自分としては最後の悪あがきで、駄目なら先輩に嫌われ、親にも勘当されるかもと不安でいっぱいなのに。
とはいえ、びくびくしながら先輩に会ってもすぐにバレてしまうだろう。愛想を尽かして帰られてしまわないよう、なんとかカルミナのふりをして二人きりになって……それでそれで……
「どうすれば先輩を落とせるかな!?」
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