#3決断

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#3決断

翌日、ゲンは一人で登校した。 登校の最中、ゲンは心配な気持ちでいっぱいだった。 (エージが学校に来れるのは、いつになるか。もしかしたらもう......) 下を向きながら歩く。やがて学校についた。 校門をくぐって校内に入ると、あの教師が廊下をウロウロしていた。 (あいつ......) エージが大怪我を負った大元ではないが、とてもイライラする。怒りを抑えきれない。しかし理性が働くのだ。小学生からの義務教育で頭に擦り付けられている。 教師に逆らってはいけないと。 「......なんだお前、なにか文句でも言いたそうだな」 「......いや」 「......その反抗的な目はなんだ」 今にも体罰をしそうな教師。しかし、ある生徒を見て止まった。 「......? 」 体罰をせずに固まっている教師に今気付いたゲン。教師が見ている方を振り向くと、そこには。 「みんなおはよッ! 気持ちいい朝だなッ!! 」 エージがいた。右腕やその周辺をギプスでぐるぐる巻きにされている。しかし、特筆すべきはそこではない。 ピッカピカの金髪に、整髪料でバチバチにキマったツーブロック。まるてヤンキーだったが、エージの顔は笑顔で輝いていた。 さっきまでゲンの目の前にいた教師は、エージの目の前に移動していた。 「おいテメェ、なんだその髪は......」 するとエージは、体罰を受けることなど気にせずに言った。 「よっ! どうこれ、似合ってるか? 」 その言葉を聞いた瞬間、教師の右手がグーを作った。そしてそれをエージに向かって繰り出す。しかしエージはそれをヒョイと避けてみせた。 「どこ狙ってんだよ! ほら、もう一発やってみろよ! 」 「この! 」 エージはそのフットワークで教師の拳を避け続けた。 やがて教師の拳のスピードが落ちてきて止まると、エージは言った。 「オレな、バカだから調べたんだ。そしたらよ、日本国憲法ってのがあってな。そん中に基本的人権のなんちゃらってのがあったんだ。要は、オレは人間だから人に迷惑かけなけりゃ何でもしていいってことだ」 エージは、自身の髪をツンツンと触って言った。 「オレ、誰かに迷惑かけてっかな? 」 ゼェゼェと息を切らしている教師は言う。 「生徒の、安全を守るためだ。金髪やツーブロックにしてると、事件や事故に遭う可能性が」 「でたよ。事件や事故に遭う可能性。『あ! あいつツーブロックだ! 車で轢いてやろ! 』ってバカかよ。なんなら目立って、事故は起こらなそうだぞ? 」 「くッ! 黙れ! 生徒の分際で教師に歯向かいやがって!! 」 再び教師が拳を振り上げると、誰かの声が響いた。 「待ってッ! 」 その声の主は、エージが助けた女子生徒だった。パーマはかかってないが、金髪に染め直してきていた。金髪ロングで、顔は適切な処置をして元のきれいな顔に戻っていた。 「ウチは分かるよ。憲法第13条。ウチらがどんな髪型するかは自己決定権で守られてる」 「お! そーだそーだ! けんぽー違反になるぞ! 」 「ぐ......」 教師はそのまま何も言えなくなっていた。 「貴様ら......覚えておけよ」 教師はそういうとどこかへ歩いていってしまった。 エージは助けてくれた彼女の方を振り返って言った。 「助けてくれてありがとな! ってか、なんであんなに難しいこと覚えてたんだ? 」 彼女は少し照れくさそうに言った。 「実はウチ、弁護士やるの夢なんだ」 「おお! いいじゃねぇか! 」 「えへへ、人を助ける仕事がしたくて......昨日のあんたみたいにさ」 「ん?ああ、そんなん気にしなくていいぞ。オレが勝手にやったことだからな」 エージがそういうと彼女は笑って言った。 「あんたらしいね」 その一連の様子を見ていたゲン。まずあることに衝撃を受けていた。 「俺達でも、学生でも......変えられる、のか」 今まで、自分の行動にブレーキをかけていた。学生では何も変えることはできない。そう思い込んで、自分を抑えていた。しかし、友人が道を示してくれた。 そして、心の中で何かを決心したゲンは、エージの元に歩いて、言った。 「なあ、エージ」 「ん? 」 「......やっぱやろうぜ。自警団! 」 それを聞いたエージの目には、どんどん光が入っていった。 「おう! やろう!! 」 -翌日- 「とは言ったものの」 ゲンはいつものように屋上のマットに寝転がり、空を見上げて呟いた。 「自警団って、何をするんだ......」 ゲンは一度決めたことはできるなら曲げたくないタイプだ。真剣に悩んでいるのだが。 「おい、エージ。そろそろゲームをやめろ」 エージはスマホのゲームに熱中していた。それをゲンは起き上がって注意したのだ。しかし 「えー? もー少しでクリアなんだぞ? 」 「......お前な、少しは自警団という自覚を持ってだな」 「うーん、かたっ苦しいのは嫌いだしなぁ」 「この......」 ゲンが呆れていると、屋上と屋内をつなぐ扉が開いた。 教師かと思いビクッと震えた2人だったが、扉を開けたのは教師ではなかった。 「ここかなー? あ! やっぱりいた! 」 そいつは、エージが命がけで助けたあのギャルだった。 「お人好しくんたちー。こんなとこで何やってんの」 金髪ロングにピンクのピアスを揺らしながら聞いてきた。まあ、前かがみになったことで他のものも揺れていたが...... ゲンはそれが見えそうになり、慌てて目を瞑った。 「な! ななななななな何をしに来たんだ!! 」 「え? そんな驚かなくてもよくなーい? ウケる~」 すると、ゲンをイジるチャンスだと思ったエージは、一緒になってからかった。 「そーだぞゲン。ウケる~だぞ」 「ウケるよね〜」 「ねー」 まるで兄弟のようにゲンをおちょくる二人。 「まったく......何しに来たんだ」 改めてしっかり聞くゲン。それに胸を張りながら答える。 「ふふん。私、マリナを自警団に入れてほしいの」 ·_· リアルにこんな顔になった二人は次の瞬間、はあああッ!? と一緒に驚いた。 「だってあんたたち、法律とか知らないでしょ? 調べたら、自警団って法律を破ることもあるらしいじゃない。だからウチが、高校生自警団としてできる範囲のことを教えてあげるの。だから入れてよ」 それを聞いていたゲンは、女性が自警団に入るのは少し危ないと考えていた。 「そんな急に......もしかしたら危険なことだってあるかもしれないんだぞ? 校則を破ることもあるんだ。だから......」 ゲンは静かにマリナの髪を見た。 「......」 「ふふん。大丈夫だからさ。任してよ! 」 「......」 ゲンは振り返って、エージの肩に手を置いた。 「リーダーはお前だ。お前が決めてくれ」 「ん? いいんじゃねぇか? 」 「そうだよな。女子を危ない目に合わせるわけには、ってええッ!? 」 てっきりゲンは、エージも自分と同意見で、マリナを入団させない考えなのだと思っていた。 しかし違った。 「キャー! ありがとー!! 」 そういうとマリナは、エージに正面から抱きついた。 「うおおおうおいおい、暑苦しいだろ」 ゲンはその様子を、この世のものとは思えないものを見るような目で見ていた。 「じゃー早速! 依頼人呼んでるから来てもらうよー! 」 「うおお話早えな」 マリナが一度屋上から出る。すると、少しガラの悪い男子生徒を連れて来た。 「ほらほら、話してみなよ。ウチらだったら解決できるからさ、多分」 少しふてくされている様子だったが、マリナがうまいこと説得したのか、事の顛末を話し始めた。 「......俺、この前ここの女教師に唾吐いたんだ。英語のババアだよ。30ぐらいの。そいつ、俺の親友(ダチ)をバカにしやがったんだ。なんて言ったと思う? 『やっぱり男ってバカばかりね。女性の方が頑張ってるわよ』って......」 自警団たちは黙って聞いていた。特にゲンとエージは、真剣に聞いていた。 「あのやろう、親友(ダチ)が英語の小テストを少し間違えただけでそんなことを言ったんだ。元々自分が嫌ってる生徒だったから、あれこれ理由をつけて責め立てたいんだろうぜ」 それを聞いてゲンは、顎に手を当てていった。 「ふむ、じゃあ依頼内容はその教師に謝らせたり、説得するってことか? 」 「まあ、それもある。だが肝心なのはな、あいつが教育と称して、意味のわからん講演会に俺を連れて行こうとしてることなんだ。だから頼む! 」 そういうと男子生徒は、両手を合わせて合掌の形にし、申し訳無さそうに言った。 「その講演会、俺の代わりに行ってきてくれ! 」 「......は? 」 「お願いだ! その日彼女と映画でな。約束破ったら殺されちまうんだ! 」 「......その講演会って、お前が行かないといけないんじゃないのか? 」 男子生徒は合わせた両手を下ろして言った。 「あのババアは現地集合って言ってた。誰も行かなかったら機嫌悪くなって更に酷い状況になる。お前らだけでも行ってくれれば、少しは気が済むだろ? 」 ゲンはため息をついた。それがとても、自警団がやることだと思えなかったからだ。どうするか決めかねて、さっきのようにエージの方を振り返った。 「どうする? エージ」 「ん? 俺は人を助けたいだけだからな。それが助けになるんだったら喜んでやるぜ!! 」 「はあ......そう言うと思ったよ」 エージの言葉を聞いて、ゲンは男子生徒の方に向き直った。 「そういうことだ。受けてやる」 すると男子生徒は、これ以上ないほどホッとした様子で喜んだ。 「良かったぁ......ありがとな! このお礼は絶対するぜ! 絶対だ!! 」 そういいながら、ウキウキの様子で屋上から出ていった。 そしてマリナは、服の中からパンフレットを取り出して、自分の机の上に開いた。それを両脇からゲンとエージが見ている。 「彼が言うには、この講演会は女性運動に関してのヤツらしいんだ。それ自体は良いんだけどさ......その講師がねー......」 マリナはパンフレットを開いて、顔写真のある女性を指さした。60歳前後という見た目をしている。 「この人。工藤って言う人なんだけど、ちょっと有名な人でさ......ほら、これ見て」 するとマリナは、デコられた自身のスマホを取り出して、何かのアプリを開いて机に置いた。スマホの画面では、ある動画が再生されていた。 ある番組の切り抜き動画で、例の工藤と若い男性が討論をしている。男女平等についてだ。 まずは男性が話しているところから動画がスタートした。 「ですからね? 先程から申し上げている通り、我が国の女性の社会進出に関しての取り組みは結構進んでいるんですよ。さっき言った産休なんかもそうですし、会社の中に保育園があるなんてこともあります。他国に比べたらまだまだではあると思いますが、それはこれから」 ここまで話すと、さっきからキレていたであろう工藤が立ち上がって、男性を指さしながら怒鳴りたてた。 「だから!! 女性が子育てをするというその固定観念がありえないと言っているの!! 女性は子育てをするための機械じゃありません!! 人間なんです!! 」 すると男性は、その圧に押されて申し訳無さそうに言った。 「あ、はい、まったくその通りだと思うんですけれど、その」 「黙りなさい!! 今は私が喋ってるの!! 遮らないで!! 」 そこで動画は終わった。 「まあこんなカンジ」 「すごい......強烈だな」 「......」 ゲンは若干引いていたが、エージは黙って見ていた。 マリナはスマホを仕舞って、屋上の出入り口に向かった。 「じゃあ頑張ってね。ウチはオーエンしてるからさ」 そこで、エージが言った。 「......ん? お前行かないのか? 」 エージにそう言われたマリナは、肩をビクッと震わせて、ゆっくりと後ろを振り向いた。 「いや、えっとぉ......ピアノの練習、とかさ」 「......」 ゲンとエージにジト......と見つめられるマリナ。特にそのデコった長い爪を。その圧に耐えられず、叫んだ。 「ああもー!! 行けばいいんでしょ行けば!! いーよ!! 行ってあげるよ!! 」 わーい、とゲンとエージは両手をあげた。その二人の顔は、計画通りというようなゲスな顔をしていた。
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