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#4女性
パンフレットに書かれていた住所は、あるビルのものだった。そこの一室を借りて講演会をやるらしい。
ビルの入口には、もうすでに女教師が待っていた。
「ん? あなたたち、なぜここにいるの? 彼はどうしたの? 」
ゲンは教師の前に出て答えた。
「いやー、あのですね、彼はちょっと用事があるみたいで、僕達が代わりに......」
「......」
教師は疑うような目で3人を見ていた。
「......まあ、いいでしょう。あなたたちにも教育が必要ですからね」
行きますよ、と教師は3人を連れてビルに入っていった。
講演会が開かれる部屋についた。ドアを開けるとそこには、もう十数人が集まっていた。全員女性だ。
前にはすでに、あの噂の工藤が立っていた。
「これで、全員ですね。では講演会を始めますよ。皆様、よろしくお願いします」
この様子をみる限りでは、あの動画のように激しい人物とは思えない。
「さて、今回私がさせていただくお話は、私の実体験を元にした社会の男女平等の問題点についてです」
工藤は、手元にある資料をめくり始めた。
「まず、私が学生をやっていた頃のことです。私は政治家を志していましたが、父親に反対されました。女のお前では無理だと。このことからすでに、男性という種族は女性を蔑んでいるということがわかりますね? 」
工藤が話し始めた矢先、いきなり手が挙がった。エージだった。
「はい、質問でーす」
隣にいた教師は手を下げさせようとしていたが、エージは何も聞かなかった。
「私が話してたんですけどね......いいですよ? なんですか? 」
エージは立ち上がって言った。
「そんな昔の話、意味ないと思いまーす。男が何も変わってないなんてことないでーす」
その喧嘩を売っているような口調は、ゲンとマリナでも流石に焦った。小声でエージを諭す。
「お、おいエージ! 」
「何やってんの!? やめてよぉ! 」
しかしエージは、構わず話を続けた。
「やっぱり、今の状況を見たほうがいいと思いまーす。女性と男性が、『自分の方が偉いぞ』『ワタシノホウガエライノヨ-』ってなってる状況をー」
その発言に工藤は苛立ちを隠せなかった。
「まったく......そうやって男性は、女性をバカにするようなことを言って、恥ずかしいと思わないの? 」
するとエージは、なんのことだかわからないというような顔をした。
「......は? 」
「なんですかその反応は? 今あなた、女性のセリフを言うときに」
「へ? 俺今、どっちが女性かなんて言ったっけか? もしかしてあんた、男性と女性を口調で判断してるのか? 男女平等を謳う人が? 」
自分の気付けなかった隠れた偏見を指摘された工藤は、少しの隙ができた。その隙をついて、エージは話し始めた。
「あんたが知ってるかは知らないが、男女平等の取り組みはたくさん行われてるぞ。女性の管理職の起用だってされてるし、セクハラへの対策だってあるんだ」
まだ話そうとすると、工藤が大声で口を挟んだ。
「も、もういいもうたくさん!! 出ていきなさい!! 」
しかしそれでも、エージは話すのをやめなかった。
「あんたは、男性を下げることでしか男女平等を表現することができないんだろ? 分かってるぜ」
自分という存在の中心を突かれたような感覚になった工藤。
エージの話はまだ続く。
「でもな、俺はこの国自体が間違ってると思うんだ。だって考えてみろよ。女性の社会的地位の向上? それって、女性が男性に合わせようと頑張ってるだけじゃんか。結局男性中心じゃんか......本来、生物としては女性の方が優れてると俺は思う。だって、人の形した土偶ってぜんぶ女性だぜ? 初めて人の上に立ったのって卑弥呼だぜ? 女性だぜ? 女性すげぇんだよ! それなのにあんたは女性が弱いと決めつけてやがる! 女性舐めんじゃねぇッ!! 」
それを聞いたマリナは、自分が自警団に入った時のエージの反応を思い出した。
ん? いいんじゃねぇか?
あれは、男女を同じように見ている言い方だった。なんなら、自分とは違う性別である女性を敬っているようにもとれたのだ。
「エージ......」
エージはさっきまでの力強さとは打って変わって、悲しげな目をしながら言った。
「いつからだろうな。男性は女性を敬うことを忘れて、女性は自分が秘めてる力を忘れて......俺は悲しいんだよ。だって、本当に男女平等になって、男性も女性も同じように仕事するようになったら、誰が赤ちゃんにおっぱいあげるんだよ。女性しかいないだろ。結局女性の苦労が増えてさ、本当の意味で男女平等なんてできなくなるんだよ......」
話しているうちに、最初にあったエージの元気な雰囲気は、どんどんなくなっていった。
「あんただってさ、悲しいだろ? 女性のために活動を続けてきたのに、時代が変わって取り残された。自分の話を聞いてくれる人間がいなくなるんだ。そりゃ辛いよな。誰かに当たりたくもなるよな」
それを聞いて工藤は、少しだけ自分が理解された気がした。今まで何も聞いてくれないと思っていた若造が、歩み寄ってくれた。
もう、何も言えなかった。
「......」
「......俺帰ります」
エージはいきなり、部屋から出ていった。それを慌てて、教師やゲンとマリナが追いかけた。
外に行くと、いつものエージが戻っていた。
「ふー疲れた! アイスでも食って帰ろーぜー! 」
すると、教師がプンスカ怒って言った。
「まったく! やはり不良は不良ですね! もういいです! 」
教師はそのまま怒って帰った。
そしてゲンが、腰に手を当ててエージに言った。
「意外だったぜ。お前がそんなに考えてたとはな。ただの頭おっぱらぴー野郎だと思ってたぜ」
「おいおいひでーよ! 俺は思ったことを言っただけだぞ!? 」
いいからアイス食おーぜ! とエージはルンルンで歩いていった。すると、エージのポケットからスマホが落ちた。
ゲンはそれを届けようと拾い上げた。
「おいおい、スマホ落とした、ぞ......」
自動で画面がついたと思うと、ある画面が表示された。それは、ウェブの検索エンジンだった。
「なにー? どしたの、って......」
マリナもそれを見て絶句した。
検索履歴はこうだ。
男女平等とは
女性運動
女性運動 歴史
男女平等 取り組み
会社 男女平等 取り組み
女性の議員 どれぐらいいる
近くの図書館
「まさか、エージが勉強とはな......」
誰もついてこないので心配になったエージは、どしたー? と後ろを振り返った。そこで二人は気がついた。エージの動きが元気すぎて気が付かなかったのだ。
エージの目の下には、うっすらとクマができていた。
「......ふっ」
「ぷっ、ぷふふ」
「え? 何で笑ってんだ? 壊れたか? 」
ゲンは、エージにスマホを手渡しながら言った。
「いや、何でもない」
「やっぱ頼りになるね! 自警団のリーダー! 」
「? どしたんだ? 」
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