#6決断

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#6決断

「お母様は重症で、程度はわかりませんが、言語障害を。そして、お父様は......」 救急隊員からの連絡を聞き、電車を乗り継いで病院まで行ったエージ。病院に着いて自分が英人であると伝えると、ある病室に案内された。 「こちらが、お母様です......」 そこには、かろうじて母親であると分かる範囲で顔面をグチャグチャにされた母親が、ベッドに横たわっていた。 そのそばのイスには、警察が二人座っていた。 「英人さん、ですね? 私たち、こういう者です......この度は、その......かなり酷いことで、心中お察しいたします」 もう一人の警察が、事情を説明した。 「お二人が温泉街にて浴衣で歩いていて、道に迷ってしまったようで。人気のない場所まで行ってしまって、そこで酔っ払った男たちが絡んできたんです。お父様はお母様を守るために必死になっていたみたいですが、男の一人がお父様を石で殴りつけました。お父様はそれで倒れて、意識はあるのに体が動かせないという状況だったようです。そのままお母様は、その......辱めを受けた、と」 つまり父は、体を動かせない状況で、自分の愛した女性が弄ばれているのを見ていることしかできなかったと。 「......」 目の前で力なく横たわる母を見ながら、エージはそんなことを考えていた。 「犯人は全員捕まえました。相応の裁きがくだるでしょう」 「では我々はこれで。また連絡することがあるかもしれませんが、その時は」 そう言って二人の警察は、病室から出ていった。 母親と二人きりだ。 「......母さん。オレだよ。分かる? 」 母のそばに座り、手を握る。すると母は、重く口を開いた。 「ごめ、ね......おかさ、が......わる、い」 それを聞いた瞬間、エージは深く絶望した。 母はいつも言っていた。自分を下げるようなことは言うなと。自分を下げるようなことを言うと、本当に下がってしまう。それを悲しむのは自分だけじゃない。家族はもっと悲しむと。 母は今、自分を下げた。そして母の言う通り、エージは悲しんだ。 自然と、エージの目から涙がこぼれた。ただひたすらに、母に向かって涙を流し続けた。 「違う......母さんは何も悪くないよ......何も......ッ! 」 それを聞いていた母も、ツーっと涙を流していた。 しばらくすると、エージは病室から出た。 学校もあるので、病院に毎日通うわけにもいかない。それに、父親の葬儀だってしなければいけない。 それからエージはしばらく、感情を表に出すことがなくなった。 父親の葬儀では、悲しみに溢れていたのに涙の一滴も出なかった。 学校も、なんの楽しさも苦しさも見いだせず、ただ淡々と過ごしていた。 そんなエージに、ゲンとマリナは何の言葉もかけてやれなかった。 そしていつものように屋上にいた3人。 今すぐ解散してもいいのだが、ゲンはなんとかしてエージを元気づけようと思っていた。すぐじゃなくてもいい、ゆっくり、ゆっくりでいいからと。 エージはいつものようにイスに座っていた。しかし、逆向きではなく、普通に。膝に肘をついてスマホを眺めていると、あるニュースの切り抜き動画が目に飛び込んできた。 「......ッ」 そのニュースを見たエージは、震えていた。 いつもと様子が違うエージに、ゲンは違和感を覚えて近づいた。そして、少しだけ話しかけた。 「なあ、エージ? どうしたんだ? なに、見てんだ? 」 「......」 マリナも心配になり、一緒になってエージに寄った。 そして二人も、エージが見ていたニュースを見た。いや、。 「夫婦を襲った三人組の男に、無罪という判決が下されました。裁判官は、男たちに殺意が認められないとして、この判決に至ったとしています。昨夜、温泉街で起きたこの凄惨な......」 スマホに、水滴が垂れたのをゲンは見た。 エージは、怒りに満ちた顔で涙を流していた。歯をガタガタと鳴らし、目を見開いている。 「なあ......ゲン、マリナ」 いきなり呼ばれた二人は、肩をビクッと揺らしながら言った。 「ど、どうした? 」 「なに......? 」 エージは覚悟を決め、震えを抑えて言った。 「オレ......」 自警団やるわ
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