共食いの闇

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共食いの闇

 深夜、冷たい雨が東京の街を包み込んでいた。静寂の中、地下鉄の駅へと続く階段を、香取慎吾に瓜二つの西園寺誠は無言で降りていた。彼の足音が響くたび、かつての記憶が頭をよぎる。裏切り、復讐、そして消えない傷跡。だが、今は迷っている暇などない。  駅の薄暗い灯りが彼の表情を映し出す。かつての彼とは異なり、その顔には決意と憤怒が刻まれていた。ここから先に待ち受けるものが何であろうと、彼は決して引き返すことはしないだろう。 「(つかさ)、この場所でいいんだな?」誠はポケットに手を突っ込み、イヤフォン越しに問いかけた。 『ああ、誠。地下鉄の西端ホーム、そこに隠された扉があるはずだ。それを見つけろ。お前の目的地はその先だ』  耳元で聞こえる司の声は冷静そのものだった。彼は信頼できる数少ない仲間の一人だ。誠が何度も絶体絶命の状況から脱出できたのは、司の情報によるところが大きい。司はどことなく満島真之介に似ている。 「分かった。だが、一つ言っておく。もしこれが罠だったら、次に会う時はお前をミンチにしてやる」 『おいおい、冗談だろ?俺がお前を裏切るわけがないさ。ただ、気をつけろ。あの場所には“共食い”が潜んでいるかもしれない』 「共食い…か。どんな化け物か楽しみだな」  誠は、薄く笑みを浮かべるとイヤフォンを外し、足を速めた。駅のホームに到着すると、そこは深夜のため人影がなく、静寂が支配していた。だが、誠にはその静けさが不気味に感じられた。無人のホームに、かすかな違和感が漂っている。  西端のホームに近づくと、誠は周囲を慎重に見渡した。司の言っていた隠された扉を探しながら、手で壁をなぞる。すると、手のひらにわずかな冷気が走った。 「ここか…」  誠は力を込めて壁を押すと、重たい音とともに壁がスライドし、暗闇の中に続く通路が現れた。彼は一瞬ためらったが、すぐに決意を固め、通路の奥へと足を踏み入れた。  暗い通路の先には、地下に広がる巨大な空間が広がっていた。そこはかつての医療施設の跡地だった。廃墟と化したその場所には、朽ちた医療器具や、倒壊した天井の残骸が散乱している。そして、遠くからは水の滴る音が響いていた。  誠が歩みを進めると、突然、背後から低い唸り声が聞こえた。彼は振り向き、影の中から現れた異形の者を目にした。筋肉質な体つきに、目には理性のかけらもない。その目は獲物を狙う捕食者のように光っている。 「これが共食いか…なるほど、人の形をしていながら、もはや人ではない」  誠はすぐに拳を構え、冷静に相手の動きを見定めた。異形の者は襲いかかるように飛びかかってきたが、誠は一瞬の隙をついてその腹に一撃を見舞った。衝撃音と共に異形の者は壁に叩きつけられ、無残にも崩れ落ちた。  しかし、次の瞬間、施設全体が地震のように揺れ始めた。誠は周囲を警戒しつつも、地面の下から激しい振動が伝わってくるのを感じた。 「この揺れ…津波か?」  司がイヤフォン越しに慌ただしく呼びかけてきた。 『誠!すぐにそこを離れろ!海底で大きな地震があった。津波が来るぞ!』  誠は歯を食いしばり、急いで施設から脱出するために走り出した。地下鉄のトンネル内は津波による水が迫ってきていた。彼は必死に出口を探し、最終的に先ほど通ってきた通路にたどり着いた。  廃墟の医療施設が崩壊し、海水が勢いよく押し寄せる中、誠は辛くも地上への脱出に成功した。しかし、彼の戦いはまだ終わっていなかった。目的を果たすため、彼は新たな決意を胸に、ロールスロイスのエンジンをかけた。 「司、次はどこだ?」 『まだ終わりじゃないぞ、誠。次の目的地は…五稜郭だ』 「五稜郭か…歴史の舞台で、俺の決着をつける時が来たようだな」  冷たい雨の中、誠はハンドルを握りしめ、新たな戦いへと向かっていった。 ---  西園寺誠は、復讐と正義のために立ち上がったアンチヒーローであり、その道は血と陰謀にまみれている。だが彼は、どんな困難にも屈せず、自らの信念を貫き通すことを誓っている。
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