コア

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 五稜郭の広大な敷地が、夕闇に染まり始める頃、西園寺誠はロールスロイスを駐車場に停めた。背後にはかつての要塞の輪郭が闇に溶け込み、歴史の重みを感じさせる。彼はフードを被り、周囲の目を避けるようにしながら城郭へと歩みを進めた。 「司、ここが最終地点か?」  誠はイヤフォン越しに司に問いかけた。だが、いつものように即答はなく、数秒の沈黙が続いた。 『ああ、ここで全てが終わる。だが気をつけろ、奴らはお前を待っている』  司の声には、いつになく緊張感があった。誠はその言葉を胸に刻み、手に持った小型のデバイスを確認する。それは彼の任務の「コア」であり、全てを終わらせるための最後の切り札だ。  城郭の内部に足を踏み入れると、そこには冷たい風が吹き抜け、夜の静寂が重くのしかかっていた。歴史的な場所に不似合いなほどの、冷えた空気と緊張感が漂っている。 「待っていたぞ、西園寺」  不意に、暗闇の中から低い声が響いた。誠が声の主に目を向けると、そこには一人の男が立っていた。年の頃は五十代半ば、痩身で背は高く、冷徹な表情を浮かべている。どことなく郷ひろみに似ている。その男こそ、誠が追い求めてきた標的、そして彼を裏切った張本人でもあった。 「神保、こんなところで会うとはな?」  誠は唇を噛み締めた。 「お前のことは、司から聞いているよ。末っ子の癖に、生意気なもんだな」誠は冷笑を浮かべた。 「お前が司の話を信じるなら、それは愚かだな。彼は今や私の手駒に過ぎない」  男は口元に薄く笑みを浮かべたが、その背後から複数の人影が現れ、誠を取り囲んだ。彼らは全員、黒ずくめの服装で武装している。誠は一瞬だけため息をつき、デバイスを握りしめた。 「司が裏切ったとしても、それがどうした。俺にはまだ『コア』が残っている」 「それが最後の切り札か?滑稽だな」  男が手を振ると、部下たちが一斉に襲いかかってきた。しかし誠は動じることなく、巧みな身のこなしで一人一人を無力化していく。彼の動きは冷静であり、まるで機械のように無駄がなかった。  全てが終わった頃、誠は男の前に立ち、静かに言い放った。 「お前は何も分かっていない。俺がここに来た理由を」  男は一瞬動揺したが、すぐに冷静さを取り戻し、ポケットからアイスピックを取り出した。 「これで終わらせてやる。寿司を食う暇もなく死ぬがいい」  しかし、誠は素早く彼の腕を捉え、アイスピックを地面に叩き落とした。 「寿司か…残念だな。最後の食事には少し地味だ」  そして、誠はデバイスのボタンを押した。次の瞬間、周囲の空間が激しく揺れ、地下から凄まじい轟音が響き渡った。 「お前が追い求めた力は、ここにある。だが、今やその力は俺の手の中にある」  男が何か叫び声を上げようとしたが、その前に誠は彼の胸に一撃を放った。男はその場に崩れ落ち、全てが終わったことを悟った。 「司、お前がもし裏切ったとしても…俺の目的は変わらない」  誠はイヤフォン越しにそう呟き、全てを終わらせた。 ---  数日後、誠はロードサービスの車に乗り、静かにシリアの砂漠を横切っていた。車のラジオからは、平和な音楽が流れている。 「シリアか…次はここで何を始めるか」  彼は新たな戦いに向けて、再びエンジンをかけた。
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