第一章「視えない私のキャンパスライフ」

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 知っているようで、知らないことが多かった学生サポートスタッフ。  アクセシビリティーセンターというのがこの慶誠大学には設置されていて、そこで学生サポートスタッフを募集して運営しているようだ。  障がい等のある学生の修学面でのサポートをしてくれる学生サポートスタッフ。  その支援内容は様々で、私のような視覚障がいのある生徒に対しては、講義で使用する教科書などの紙面情報をパソコン等で読んだり、音声再生できるように、テキストデータ化や点字化を行ったりする「テキストデータ化サポート」「授業前後の移動支援」、「自動販売機などへの点字貼付」などがある。    また、聴覚に障がいのある生徒に対しては、授業の音声情報を文字や図の視覚情報に書き残すノートテイクの支援などがあり、車椅子ユーザーなどのためにキャンパス内のバリアフリー環境や障がい物を調査して障害になる場所を調べたりする調査もある。  これらはアルバイトのような形で報酬として謝金が支払われるのが大半で講習などを受けて、サポートの仕方を日々学ぶことが義務付けられている。  聞けば聞くほど、静江さんは立派な役割を引き受けてくれているのだと感謝感激してしまう。  私も将来は誰かの役に立てるよう、感心してばかりはいられない。  サポートをしてもらえる以上、背筋を伸ばして勉学に臨まなければいけないと改めて心に刻んだ。 「社会に出たら、なかなか仕事との両立が難しくて、職場で同じようなサポートを受けるのは厳しいかもしれないけど、学生同士なら時間に余裕もあって気兼ねなく助け合いが出来ると思うのよね。  それに、前田さんのような可愛い女性のサポートが出来るなら、役得だしね」 「可愛いって……そんなお世辞を言われても、困ってしまいます」  私は視線を向けられ見つめられているような感覚に囚われて、恥ずかしくなった。  ちょっとねっとりしたような言い方をする静江さんは色気が醸し出されていいかもしれない。いや、変な意味ではないけど……。 「あの……静江さんがどんな人なのかもっと知りたいなって思って。  何から聞けばいいでしょうか……身長は私とあまり変わらないくらいですよね?」  雑談のような形になってしまうが、私は静江さんのことがもっと知りたくなって質問した。 「そうね、前田さんより少し高いくらいかしら。平均的な女子大生と変わらないと思うわよ」  視覚的情報が得られない私に親切に教えてくれる静江さん。  私はそれから色んな質問をした。    静江さんは学生寮には入っておらず、駅前にあるアパートでお姉さんと二人暮らしをしているそうだ。  田舎出身で上京してきたと話すが、地方都市からやって来たという印象だ。  趣味は映画鑑賞と動物園に行くことで、大の動物好きであることは納得だった。  将来は介護職や相談支援員として働くことを考えていて、日夜勉強を続けている真面目な先輩という印象に変わりはなかった。   ちなみに昼食を一緒に取ったが、チキンソテーがメインで載っている軽めの定食を食べた私よりも静江さんは小食だった。  恋人がいるわけではないそうだが、体重を気にしているみたい。  本人曰く、運動嫌いだから何も考えず食べたらすぐに危険領域に突入して今の服を着れなくなるらしい。  オーストラリアにいた頃はそこまで体格を気にする人は少なかったので、久しぶりに感じた日本の女性らしい感覚だった。    「前田さんはスマートで羨ましいわね。  そんなに食べても太らないなんて……」 「いえいえ……私だって食べ過ぎてしてしまったら普通に太りますよ。  だから、あまり甘いものは控えてます」 「どうして……私が甘いものに目がないことを知っているの……」  全くの偶然ではあったが、急所を突いてしまったのか、私は気付いてはいけないことに気付いてしまったみたい。  私だって甘いものは好きだ。ケーキやアイスクリームを食べた日には幸せな気分になれる。今度ケーキが美味しい喫茶店にでも連れて行ってもらうのもいいかもしれない。  私の印象としては静江さんの体格はあまり私と差はなく、病気などもしていない健康体そのものだった。
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