第一章「視えない私のキャンパスライフ」

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 次の日、今後に関わる説明などが行われるオリエンテーションに出席した私は新たな出会いを果たした。  昨日とは打って変わって明るめな春物のエプロンワンピースを着てきた私は配布された資料が点字ではないので、学部長や教授の言葉に耳を傾けていた。 「ねぇ、ちょっといいかな?」  端の席に座っていると、教授の話が終わった直後に左隣の学生から小声で私は話しかけられた。今日も床に寝そべっているフェロッソと一緒だった。 「えっ? どうかしましたか?」  私は集中していた反動で驚いた表情のまま声のした方を向いた。  隣に座っていたのが女学生であることは分かっていたが、急に話しかけられてビックリしてしまった。 「足元に手帳を落としてますよ」 「本当ですか? すみません、気付きませんでした」  うっかりしていて落としてしまったのに気付かなかったのだろう。  スマホや鍵ならある程度落としてすぐに音で気付くことが出来るが、障がい者手帳のような小さめであまり目立った音のしないものは落としたことに気付きづらい。過去にもカラオケボックスで置き去りにして帰ってしまったことがあったので、注意が必要なところだった。 「うーん……どこですか……手帳…手帳…」  椅子が横並びになっている長い机と机の間のスペースは狭く、私は懸命に手を伸ばして探すがなかなか見つけることが出来ない。   「その……スカート履いているから遠慮していましたが、代わりに取りましょうか?」  情けないことに苦戦をしていると親切にも助け舟を出してくれた。 「あっ……すみません、お願いします」  ここで意固地になってしまってはいけないと思い、私は大人しく隣に座る女生徒に任せることにした。 「はい、どうぞ」 「ありがとうございます。すみません、落とした物を探すのは苦手で」  ずっと手帳の姿が女学生には見えていたのだろう。  拾ってすぐに手渡してくれた。私は紛れもない自分の手帳の感触を確かめ安堵した。 「あまり無理はせず大変でしょうから、気にせずに頼ってください。  同じ学部の同じ女同士なんですから、遠慮は無用ですよ」 「そう言ってもらえると嬉しいです」  決して彼女のように献身的で見返りなく手助けしてくれる人ばかりではないが、私は素直に感謝した。  学生サポートスタッフ以外でこうした助けを受けるのはこの大学にやって来て初めてのことだった。  日本の学校に通うこと自体が久しぶりで感覚が鈍っていたが、信頼できる相手には頼った方がいい、そのことを私は再認識した。 「自己紹介いいですか? あたしは恵美(えみ)長澤恵美(ながさわえみ)と言います」 「私は前田郁恵、この子は盲導犬のフェロッソです」  そのままオリエンテーションは休憩時間に入ったようで、ざわざわと教室内の至る所で会話が繰り広げられる中、私達は自己紹介をした。 「ずっと静かに座っていてお利口さんなんですね。でも、盲導犬が必要な理由がよく分かりました。ある程度近づけば見える弱視の方と違って本当に見えないんですね」 「私の目は生まれつきそうですね。ですので、フェロッソが私の目の代わりをしてくれています」  助けられた後という事もあって、私は素直に自分のことを話した。  陽射しの強い夏場以外、サングラスを掛けない私だが、見えないことが私の日常だ。  相手も関心を寄せてくれているようなので話しやすく、私達はすぐに仲良くなった。  いつでも相談に乗ってくれるという彼女と連絡先も交換して、同じ学部ということで会う機会も多く、貴重な友人となった。
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