嘘つきメッセンジャー

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「今までためていた貯金の一部だから大丈夫」  ゆうなさんはそう言っていたそうだが、実際には違った。それは彼女がOLの仕事を辞めて風俗店で働いて手にしたお金だったという。  ゆうなさんはそれを隠していたが、客から直接受け取ったと思われるしわくちゃの紙幣を見て彼はその事実に気づいたそうだ。借金と恋人の身売りのあいだにはさまれ、真矢さんは悩んだ。たしかに、このまま彼女が風俗で働き続ければ、いずれ借金はゼロになる。一生、利子だけを返す生活から抜け出せる。しかし、そんなわけにはいかない。真矢さんの出した答えはやさしかった。  彼女に風俗を辞めてもらおう。借金は自分の力で返して、そして彼女と結婚しよう。その気持ちを伝えるためにデートに向かった。しかし、その途中で運悪く事故にあって、こんな状態になってしまった。 「もう、おでのごど、わずれで……」  彼は、自分で彼女を幸せにできなくなってしまった今もゆうなさんの幸せを願っていた。そのためには、自分はもうこの世にいないものと思ってもらいたいと言う。その気持ちを、手紙に書き記したのだそうだ。手が動かないから、口にペンをくわえて、看護師にささえられながら、力を振り絞って。 「でも、そんなに愛しあっていた恋人なら、わかってくれるんじゃないかな。あんたが、どんな状態だったとしても、あんたの『さよなら』を聞いたとしても、彼女はあんたをささえたいって思うんじゃないかな……」  彼は動かない頭をプルプル震わせた。 「だめだ。彼女を自由に……」  それが彼の確固たる意志のようだった。 「わかった」  おれは封筒を受け取ると、それを蛍光イエローのジャケットの内ポケットにしまった。病室を出てエレベーターで一階に降りる。ゆうなさんの住所は彼が持っていた手帳に綺麗な文字で書かれていた。入口に停めてあるロードバイクにまたがりペダルを踏みこむ。  目的地のアパートは、病院から三キロ程度離れていた。オートロックもエントランスもない二階建てのアパート。その二階の角部屋が彼女の部屋らしい。 「借金返済のためのお金をためてたら、贅沢できないよな」  そんなふうに思いながら外階段をのぼる。インターフォンを鳴らすが反応がない。どうやら留守のようだ。 「日を改めるかな」  そう思って部屋のまえをあとにする。階段を降り切ったところでカップルにすれ違う。暗い顔をした普通の女とカタギではない雰囲気の男だった。 「明日は結婚式だな、ゆうな」  その台詞でおれは振り向く。
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