嘘つきメッセンジャー

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「これ、真矢さんからです」 「え?」  ゆうなさんは一瞬、驚いた顔になり目をまんまるに見開いた。そして、次の瞬間、おれの頬に激痛が走った。  平手で殴られたのだ。相手はゆうなさんだった。 「あなた誰? どうして結婚式を邪魔するの?」  なんで? 予想外の言葉に反論する。 「あなたは真矢さんのことが好きなんでしょ? それなのにみずからを犠牲にして好きでもない男と結婚するなんて、おかしいじゃないか」  会場がしんと静まり返った。その静寂をかん高い笑い声がやぶる。 「あはははは」  声の主は、ゆうなさんだった。彼女は、心底バカにしたような口調で言う。 「私が、あの男のことが好き? バカじゃないの? そんなわけないでしょ」  その言葉を一瞬理解できなかった。 「彼の借金を返すために、たしかに私は仕事を変えた。自分を売ってお金を作った。でもね、そんな生活がバカらしくなったの。この人は、そんな私を救ってくれた」  そう言ってチンピラふうの男の腕をとる。 「この人、私の働くお店のオーナーなの。お金も持ってるし、この人と結婚すれば私は幸せになれるの。あんな貧乏くさいやつなんかより、よっぽどこの人の方がいいわ」  おれはそれでも、彼女の台詞が全部強がりであると思いたかった。しかし、そんなものはただの幻想だ。 「あいつが事故にあって障がい者になったことは知っていた。でも、私は一度もお見舞いに行っていない。その理由はわかるでしょ。もうあの男は他人だからよ」  ミラーグラスをかけていないゆうなさんの素の目には嘘偽りがないように思えた。 「ほら、見てよ。この指輪。すごいでしょ。一カラットもあるのよ。ここにいるみんなが羨ましがってる。私がこんな指輪をつけられるようになったのも全部、彼のおかげなの。あんな貧乏くさい男と一緒にいたら、私は一生幸せにはなれなかった。だから、もう邪魔しないでね。バイバイ、あんたも、あの貧乏くさい男も」  そう言ってシッシッというポーズをする。おれのなかでなにかが切れた。拳を握って振りかぶる。 「うおおおお」  生まれて初めて女に手をあげようと思った。 「きゃあっ」  彼女が叫ぶ。同時におれは周囲の人間に取り押さえられる。
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