103Thank you for loving me all the time(龍王丸とテツ、😅꜆꜄꜆グダグダと話は続きます┏○ペコッ)

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103Thank you for loving me all the time(龍王丸とテツ、😅꜆꜄꜆グダグダと話は続きます┏○ペコッ)

◇◇◇ 堀江が現れたあの夜から、一週間、10日……ひと月が過ぎていたが、堀江はあれから姿を見せない。 翔吾はテツほどの力は無いと思うが、それでも殴られたら顔が腫れるだろう。 このままおとなしくしてくれたら助かる。 翔吾が堀江を殴った事をテツに話そうかと思ったが、翔吾が不意打ちで迎えに来た事もあり、また下手に疑われたら面倒なので話さなかった。 姉貴はちょっと前に退院したが、またすぐに入院してしまい、そのせいで、龍王丸はすっかりこの部屋の主と化している。 「いてて、またか、こいつ~」 テツが俺の側にいる時は、どこからともなくやって来て、不意打ちで猫パンチをおみまいする。 猫だから気まぐれだ。 いつ来るかわからない。 今もソファーの背もたれに上がって、テツの頭をバシッとやった。 テツは怒って捕まえようとするが、猫は素早い上にジャンプ力がある。 キッチンへ逃げて食器棚の上に飛び上がった。 「この野郎、卑怯だぞ、降りてこい!」 食器棚を見上げて文句を言う姿は、まるで猫を追い立てて吠えまくる犬のようだ。 龍王丸は余裕の表情でテツを見下ろしている。 「椅子ねぇか、椅子」 「もういいじゃん、ほっときなよ」 テツは椅子を持ってきて龍王丸を捕まえたいらしいが、捕まえたからといって龍王丸を折檻するわけじゃない。 無理矢理抱っこしようとするのだ。 抱っこして押さえ込めば、龍王丸が諦めて従うと思っているらしい。 何故そんなやり方をするのか聞いたら、猟犬を躾ける時に押さえ込んで服従させる方法があると言う。 へえ~と感心したが、龍王丸は猫だ。 そもそも服従するような生き物じゃないと思う。 無理矢理抱っこなんかしたら、唸り声をあげて狂ったように暴れ、テツは腹や胸、二の腕など、至る箇所を引っ掻かれ、耐えきれなくなって手を離す。 龍王丸はすっ飛んで逃げ出し、テツの躾けは失敗に終わる。 それの繰り返しだ。 「よーし、そのまま動くな……」 テツは椅子の上にあがり、手を伸ばして龍王丸を捕獲しようとしている。 「あ"っ! コノヤロー」 絶対無理だと思ったら、案の定、龍王丸は冷蔵庫の上に飛び移った。 「ちっ……、また逃げやがったな」 テツは悔しげに舌打ちして椅子からおりた。 「ぷっ……、だから無理だって……」 懲りもせず、よくやるな~と思う。 「ったくよ~、俺が抱いてやるっつってるのに、分からねー奴だ」 ぶつくさ言いながら戻って来ると、体を投げ出すように俺の隣に座った。 「あのさー、そうやって騒がしくするから余計に嫌われるんじゃね? 火野さんなんか物静かだろ、だから龍王丸は火野さんが好きなんだ」 「そんなわけあるか、必ず服従させてやる」 多分一生無理だ。 「ふーん……、ま、頑張って」 けど、引っ掻かれて痛い思いをするのはテツだから、好きにさせておく。 「奴はまだ冷蔵庫の上だな、よし……」 テツは龍王丸の居場所を確認して肩を抱いてきた。 「くっ、ぷぷっ……」 たかが猫一匹に翻弄されるのが笑える。 「猫の事はまあーいい、そういや、若から聞いたぜ、堀江が店に来たんだって?」 笑っていたら堀江の事を口にしたが、翔吾が話したらしい。 「いつ聞いたんだ?」 別に知られても構わないが、河神の件があるし、堀江が店に来たとしてもスルーするのが無難だ。 「ちょい前だ」 「そっか」 とりあえず、テツの出方をうかがった。 「若が殴ったんだってな」 「うん、そう……」 「手が腫れてるからよ、おかしいとは思ってたんだ」 「手が?」 「ああ、殴り慣れてねーと、下手すりゃ骨折する、ま、そこまではいってねーが、しばらく腫れてた、わけを聞いても最初は言わなかったが、かっこ悪ぃと思ったんだろう」 「そうなんだ……」 翔吾が人を殴ったのは初めてだったようだ。 翔吾は日々体を鍛え、言葉遣いも男っぽくなり、如何にもそれらしく振舞っているが、記念すべき人生初殴りの相手は……堀江となった。 「若は黒木と俺がいねぇ間に、お前に会いに来た、ほんといや……そこんとこはちょっとひっかかる、けどよー、若はな、喧嘩なんかした事ねぇんだ、その若が……お前や俺の為にそこまでしたとなりゃ……、疑ったらバチが当たるからな」 テツは翔吾の事を疑うつもりはないらしい。 堀江と店長が知り合いだとか、翔吾が殴る前に1度来ていた事を話して、念の為堀江の事をスルーするように言おうかと思ったら、ピンポンが鳴った。 「誰か来たよ」 声をかけると、テツは無言のまま立ち上がって玄関へ向かう。 「あっ……、矢吹さん」 ドアが開いたのが分かり、聞き覚えのある声がした。 「なんだ、カオリか、どうした?」 「あの~、ご無沙汰してます~、今日引越しなんだ、だから一応言っておこうと思って」 遂に水野とカオリがやって来るらしい。 「おお、こないだは挨拶に来てくれて悪かったな、で、いつだ、今からか?」 「いえ、まだなんですが、あたしは先にきて、配置とか考え中で……、あの~、これからよろしくお願いします」 「ああ、こっちも宜しく頼むぜ、にしても……、水野の奴、なんにも言わねーからよ、うちの若い衆を手伝わせるわ、連絡するからちょっと待て」 「あ、いいえ、水野君はそれを気にして内緒にしてたから、もし矢吹が何か言ってきたら、自分とこの若い衆にやらせるから手は足りてるって……そう言えって」 「なんだよ、みずくせぇな、遠慮する事ぁねぇ、何人か手配する」 「あの、本当に……、有難く思ってます、でもお気持ちだけで充分です」 「ふーん、じゃ、手伝いはいいんだな?」 2人は引越しの事を話していたので、俺も顔を出そうと思って立ち上がったら、龍王丸がタタッと走り寄って来た。 「カオリさん、どーも」 「あ、友也君」 玄関に行ってテツの横で頭を下げたら、龍王丸がカオリの足元に擦り寄った。 「ふふっ、可愛いな~」 カオリは屈み込んで龍王丸に手を伸ばした。 「龍王丸はカオリさんが好きみたいだ」 「そっかー、強そうな名前だね、ふわふわで人懐っこい」 「火野さんと姉貴んとこの猫なんだけど、姉貴、まだ入院してるから、うちで預かってる」 「お姉さん、大丈夫なの?」 「あ、はい、なかなか落ち着かなくて不安定だから、入院してます」 「そう、心配だね、お姉さん、年は友也君とそんなに変わらないでしょ? まだ若いのに……、大変だね」 「ええ、まぁ~、姉貴はすぐ無理をするから……」 「そっか、じゃあ、無理をしないように、あたしが宜しく言ってたって伝えといて」 「はい、ありがとうございます」 「おいコラ、俺は無視か」 つい話し込んでいたら、テツが文句を言ってきた。 「あ、ごめんなさい、じゃあ……、あたしはそろそろ行かなきゃ、ちょっと騒がしくするかもしれないけど、ホント気にしなくていいので」 カオリは笑顔で詫びると、念を押すように言った。 「おう、見て見ぬふりをしてやるよ」 テツは冗談っぽく返す。 「はい、そうしてください、それじゃあ、矢吹さんお邪魔しました、じゃ友也君、それに龍王丸、またね」 カオリは頭を下げて挨拶し、去り際に龍王丸を撫でて立ち去った。 ソファーへ戻ろうとしたが、何気なくテツを見たら……さっきとは打って変わって険しい表情をしている。 「あっ、腹減ったよな? 俺、なんか作るよ……」 気にはなったが、たいした事じゃないだろう。 もうじき昼がくるし、キッチンへ向かった。 「ふっ、逃がさねぇぞ」 だが、テツがついて来た。 「別に逃げてねーし、飯作るだけだ」 無視してフライパンを出した。 「あのよー、お前にゃ助けられた、それは嫌って程わかってる、俺はな、責めるつもりはねー、ただなー、いざ側に来るとなったら……どうしても気になる」 ひとりでごちゃごちゃ言ってるが、何が言いたいか、だいたい見当はついている。 「っと……、何を言ってるのかな、あ……卵は……っと」 「水野の事だ、ストレートに行くぞ……、寝たのか?」 スルーしようとしたが、やっぱりそうきた。 「そんな事聞いて、どうするんだよ」 水野はこれから新婚生活をスタートさせる。 「どうもしねぇ、単なる確認だ」 蒸し返す事はないと思うが、因縁をつけられて変態プレイに持ち込まれるのは避けたい。 「本当に?」 「あのな~、あの組長んとこにいて、水野はああいう奴だ、水野がお前に優しくしねーわけがねー、バレバレじゃねーか、怒りゃしねぇよ、本当だ、な、寝たのか?」 テツは苦笑いして聞いてきた。 「じゃあ、言う……、組長の屋敷にいた時、組長が水野さんを連れてきた、あの状況じゃやるしかなくて……、互いにどうしようもなかった」 ホント言うと……水野は嫌がってたわけじゃなく、結構乗り気だったが、そこは言わずにおこう。 「やっぱりそうか……、わかった、で、あいつはおめぇが逃げる為に力を貸したと聞いたが……そりゃあな、水野が浮島の中じゃまともな奴なのはわかってる、けどよ、何故奴はお前にそこまでしたんだ?」 「それは……」 水野は俺に同情したとしか言いようがない。 縋りついて泣いてしまったし、俺の事を可哀想に思ったんだろう。 だけど、あの時の俺は……水野にテツを重ねて見ていた。 「水野さんはミノルにも優しくしてたし、姐さんにも一目置かれてる、別に俺だけに優しくしたわけじゃなく、そういう性格なんじゃねぇの?」 「姐さんにもか? あのじゃじゃ馬に1目置かれてるとすりゃ……、確かにそうかもな、この世界はとかく威張り散らす奴が多い、下っ端なんか大した理由がなくても兄貴分の気分次第で殴る蹴るだ、そんな中じゃうちはむしろ変わり種だろう、浮島んとこは王道をいってるからな、すぐに手を出す、けど……あいつは下っ端に対しても威張り散らすこたぁねーし、当たりがやわらけぇ」 テツが言うくらいだし、水野はガチでそういう性格らしい。 「じゃあ……、そういう事で、俺は昼飯を作るから」 けれど、あれは異常な出来事だ。 俺はもうこれ以上その話をしたくない。 「ああ、わかったよ、気になってたからよ、スッキリしたわ、へっへー」 テツは急に機嫌がよくなり、後ろから抱きついてきた。 「ちょっと……飯作るんだから」 「作りゃいいだろう、料理をしながらやるのも悪くねー」 馬鹿な事を言ってズボンを脱がそうとする。 「何やって……、ズラすな」 今日はテツが店まで送ってくれるが、今から引越しだと……マンションを出る時に浮島組の誰かと顔を合わせる可能性がある。 「へへ~、やべぇぞ、半ケツだ」 俺はとてもそんな気分じゃなかったが、片手でフライパンを握ってちゃ不利だ。 「ちょっ……、このっ、させるか……!」 フライパンを離し、両手でズボンを死守していると、龍王丸が足元にやって来た。 「おいコラァ、観念しろ、クックックッ」 幸いにもテツは龍王丸に気づいてない。 「フウゥーッ!」 ヤレ! と心の中で龍王丸に命令したら唸り声がした。 「いってぇ~! なにしやがる……またお前か、この~っ、もう許さねー、待てこいつ!」 龍王丸の爪は、布を貫いて皮膚に突き刺さる。 テツの足を引っ掻いたようだが、テツは龍王丸を追いかけて行った。 龍王丸はそう簡単には捕まらないから、これで安心して料理を作れそうだ。 「はあ~、助かった……」 ◇◇◇ 昼を食べたあとはのんびり過ごした。 15時を過ぎた辺りで外が賑やかになってきたが、手伝いは不要だと言われてるから、テツはソファーに寝転がっていた。 俺は今のうちに洗濯物を済ませる事にしたが、先日購入したドラム式洗濯機は、乾燥までやってくれるから乾くのを待つだけだ。 洗濯機はいつか翔吾達と一緒に行った家電量販店で買ったが、電気屋に行く前に、テツは自分が誂えたスーツを着ろと言ってきた。 たかが電気屋に行くだけで大袈裟だと言って断ったが、着る機会がないからこの際着ろと言う。 確かにそのスーツを着て外出した事がない。 スーツを着る事にして、テツと一緒にマンションを出た。 電気屋に着いたら、あの時に揉め事になった場所を通ったが、不意に従業員専用扉が開き、男の店員がまっすぐに俺達の方へやって来た。 名前は忘れたが、奴だ……ハンペンだ。 確か、ハンペンは他の店員から接客するなと叱られていた。 けど、翔吾達と来た時と同じく、店にいる店員達は皆俺達から目を逸らし、近寄ってくる店員は皆無だ。 俺達の周りはガラ空きだから、ハンペンにとってはまたとないチャンスになったらしい。 ハンペンは俺達の事など忘れているらしく、あの時と同様にペラペラ喋り始めた。 あれだけ揉めて忘れてるのもおかしいが、何がなんでも販売したい……その強い意思が先立って、自分にとって不都合な記憶は消えているんだろう。 ハンペンは相変わらず高額な商品のみを勧めてくる。 俺は他の店員を呼ぼうとしたが、テツは構わないと言ってハンペンの説明を聞いていた。 散々聞いた後で、ハンペンがお勧めじゃない商品に決めたが、ハンペンは諦めなかった。 翔吾には嫌味を言った挙句、禁止ワード『ボンボン』を口にした為、ハンペンとボンボンで戦いになったが、テツにはこれと言って弱点がない。 戦いになる事はなかったが、ハンペンは尋常ではないしつこさを発揮し、しまいには、俺達が買うと言った商品を売らないとまで言い出した。 完全に頭がイカレている。 参っていると、たまたまガタイのいい店員が通りかかり、そいつにハンペンの事を訴えた。 ガタイのいい店員は、ハンペンを見て驚いた顔をすると、ハンペンをとっ捕まえてバックヤードへ強制連行した。 ハンペンは訳の分からない事を喚き散らしていたが、ガタイのいい店員には抗えない。 楽勝で奥へ連れていかれた。 それと入れ替わるように責任者がやって来たが、俺達に平謝りした後で、詫びだと言ってあの時と同じように商品を割引きしてくれた。 帰りの車中で、『やっぱり、テツと一緒だと得するな』と冗談半分で言ったら、テツは『お前も同類だ』と言う。 一瞬意味が分からなかったが、そう言えば、スーツを着ていたから、ヤクザみたいに見えたのかもしれない。 ◇◇◇ そんな事を思い出しながらテツの向かい側に座り、龍王丸を膝に抱いてブラシをかけたが、龍王丸はブラシが好きだ。 細い針金が沢山ついているやつだが、ブラシにスリスリしてくる。 「これ、そんなに好きか? なんか痛そうだけど……」 猫の皮膚は人間とは違って分厚いようだ。 喉をゴロゴロ鳴らし、腹を出してひっくり返った。 テツは昼飯を食って眠りこけているから、起こさない方がいい。 「ニャッ……」 龍王丸は小さな声で短く鳴いたが、甘えてる時にたまにこういう声を出す。 「よし、出来た」 ブラシをかけ終えて立ち上がったら、またピンポンが鳴った。 もし亀谷だったら……。 テツが目を覚まさないように、足音を忍ばせて玄関にダッシュした。 「ちぃーっす」 ドアを開けたら、予想外の人物が頭を下げて挨拶した。 「あ、えっ?」 ケンジだった。 「あの~友也君、俺さ~、浮島さんに世話になってたっしょ? で、水野の兄貴が引越しするって聞いて~、手伝いに来たんっすよ」 ケンジは説明したが、今日は俺の事を友也君と言う。 親父さんのところで修行中だから、言葉遣いもマシになってきたようだ。 「あ、そっか……」 ただ、引越しの手伝いついでに来られても……別に親しくもないし、困惑する。 「矢吹の兄貴いる?」 なのに、何故かテツの事を聞いてくる。 「いるけど、今寝てるから……」 不躾に兄貴分を呼ぶとか、ちょっとむっとした。 「そうっすか、あの~、兄貴によろしく言っといてください、これ~つまんねー物だけど、テキーラ、兄貴に」 すると、ケンジは紙袋を渡してくる。 「あ、っと……、はい、わかりました、すみません……」 まさか手土産を持ってくるとは思わなかったので、意表を突かれて唖然としたが、兎に角頭を下げて礼を言った。 「へへっ、兄貴にゃ色々と世話になってっから、んじゃ、また~」 ケンジは片手を上げて立ち去ったが、つまり……わざわざ挨拶しに来たって事だ。 だったら、もうちょい愛想良くすれば良かったと後悔した。 紙袋をソファーの脇へ置き、仕上がった洗濯物を片付けたが、テツはまだ眠っている。 小腹が空いたから冷蔵庫から適当な物を出して食べた。 掃除でもしようかと思ったが、やかましくして起こしちゃ悪い。 ここ最近は昼夜関係なく出かけて行き、1晩すぎて翌日の昼まで帰らない事もある。 疲れてるだろうし、そのまま寝かせておいた。 そろそろ行かなきゃならない時間になって、仕方なく起こしたが、まだ眠そうだ。 「ケビンに頼めるなら、俺、それでいいから、あんたは俺を送って行った後、またそのまま行くんだろ?」 今夜も帰れるかわからないだろうし、無理しなくていい。 「ああ、大した事じゃねーんだが、ちょっとゴタゴタしててな、とにかく起きるわ……、ふう~寝すぎた」 テツはゴタゴタしてると言ったが、俺は詳しい内容は分からない。 わからないが、電話をしてるのを聞いたりしていると、アバウトに内容がわかる。 どうやら不動産絡みのトラブルのようだ。 「本当に大丈夫なのか? 前みたいに刺されたりしないよな」 「おお、ガキだからって、油断しねぇ事にしたからな、はははっ!」 テツは笑い飛ばして言ったが、やっぱり心配だ。 「笑い事じゃねーし」 「大丈夫だ、林や火野も来る」 2人が一緒だと聞いて、ちょっと安心した。 「そうなんだ、でも気をつけなきゃ……」 「ああ、わかってるって、心配するな」 「うん、じゃあ……、まあー、あの~、寝てる時に的場さんが来たよ、で、これを渡してくれって」 ケンジから貰った物を差し出すと、龍王丸がソファーから飛びおりた。 何かと思ったらキッチンへ歩いて行き、水を飲んでいる。 「ん、そうか、あいつ手伝いに来てるんだな」 「らしい」 「なんだ? おおテキーラか、へへっ、よくわかってるじゃねーか……、腹減った、何か食いに行こう、店はちょっとぐれぇ遅刻しても構わねー、その後で送ってくわ」 テツは紙袋をゴソゴソ探り、話ながらテキーラの入った箱を取り出した。 「わかった」 テキーラの酒瓶を箱から取り出してサイドボードに入れると、テツと一緒にバタバタと出かける用意を済ませて玄関を出た。 下から聞こえてくる喧騒は静かになっている。 もう引越しは終わって、みんな引き上げたのかもしれない。 ちょっと安心して下に降りたが、それらしきトラックも止まってないし、大丈夫だと思って車の方へ歩いて行った。 「おい、矢吹じゃねーか」 だが、背後から亀谷の声がした。 「ん、なんだ、おめぇか」 水野の部屋から出てきたらしいが、よりによって一番会いたくない人物と鉢合わせするとは……ついてない。 「へへっ、なんだぁ、2人して出かけるのか、仲がいいな~おい」 亀谷はニヤニヤしながら近寄ってきた。 「そんなんじゃねーよ、こいつをバイト先に送って行くんだ」 テツは振り返って足を止めたので、俺も同じように振り向いたが、頭を下げる気持ちにはなれなかった。 「おお、そういやそうだったな」 「ああ、こないだは挨拶に来てくれて、悪かったな、引越しは終わったのか?」 「おお、あんときゃ、俺はついてきただけだ、引越しは~ちょっと前に終わって、もう皆引き上げた、しかし……水野がこのマンションに住むとはな、まあーうちとおめぇんとこは、言ってみりゃ兄弟みてぇなものだからよ、何かあった時は互いに助けあわなきゃな」 亀谷は当たり障りのない事を話している。 余計な事を言うんじゃないか? と思っていただけに安心した。 「ああ、そうだな……、それじゃ、水野にはまた改めて挨拶する、じゃ、またな」 テツは片手を上げて挨拶すると踵を返し、俺もすぐ後について行った。 「あっ、矢吹……ちょっと待て」 けど、亀谷はまた声をかけてくる。 「ん、なんだ、まだなにかあるのか?」 テツは怪訝な顔で振り向いたが、俺は振り向かなかった。 「いや……、友也をよー、親父んとこに遊びに来させる気はねーか? あれだ、勿論客としてもてなす、親父がな、また顔が見たいと言ってる」 せっかく平和にやり過ごせそうだったのに、亀谷は馬鹿な事を言い出した。 「あのよー、確かに……うちとおめぇんとこが仲良くやるのは互いの為だ、但し、こいつは俺の息子で霧島の人間じゃねー、俺は親として、こいつを行かせるつもりはねー、友也、おめぇ……、浮島んとこに遊びに行きてぇか?」 テツは呆れたように言って俺に聞いてきた。 「いや」 行きたい筈がない。 「そういうこった」 テツは冷静な口調で返しているが、拳を握り締めている。 「まあー、ちょっと待ちなよ、そうあっさり断るな」 俺はヤバいと思ったが、亀谷は能天気に引き止める。 「亀谷、今言った事は聞かなかった事にしてやる、但し、これ1回きりだ、お宅のおやっさんが何を言おうが自由だが……おめぇは別だ、今まで通り、楽しくやりてぇなら、少しは人の気持ちを理解する能力を身につけろ、おめぇが思うほど……俺は簡単じゃねーぞ」 テツは殴りたいのを我慢している。 拳をギュッと握り締めて亀谷に言い返した。 「おいおい、そうムキになるなよ、へへっ、俺はただ気が向けばって……そう思っただけだ」 亀谷は慌てて言い訳をしたが、浮島組の連中は水野と竜治以外みんなこんな感じだ。 俺がもし女なら、初めからあんな真似はしなかっただろうし、もししたとしても2度と誘ってくる事はないだろう。 男だから……同性だから……テツと俺との関係を軽く見ている。 確証はないが、多分そうだ。 「ふんっ……、友也、行くぞ」 テツは亀谷を鼻であしらって歩き出した。 「あ、うん……」 俺はテツの後を追って助手席に乗り込んだが、窓から外を見たら、亀谷が自分の車に乗り込むところが目に映った。 テツは苛立つように加速し、タイヤを鳴らして一気に駐車場から走り出た。 「あいつ、まだおめぇの事を……、ちっ、胸糞わりぃ」 俺はテツが亀谷を殴らなかった事に安堵していたが、テツは怒り心頭らしい。 「何が客としてもてなすだ、ふざけんな!」 なんとか宥めたいが、元はと言えば俺が原因だ。 口を出せずにいた。 「おい友也、挨拶に来た時にも亀谷に言われたんじゃねーのか?」 黙っていたら、テツが聞いてきた。 「ああ、うん……」 「やっぱりそうか……、あいつら頭がイカレてる、キメセクだなんだと言って、自分らに打ってんじゃねーのか、そういや……木下の奴はカミさんに逃げられたらしいが、おい、まさか何か言って来たんじゃねーだろうな」 しかも、怒りは竜治へ飛び火したが、それは話せない。 「いや、無い」 「それならいいが、暫くの間、送迎にゃ2人つける、木下は何をやらかすか分からねーからな、いいな?」 テツは送迎に2人つけると言ったが、これ以上追求するつもりはなさそうだ。 「わかった……」 ひとまず……助かった。
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