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14tangle(寺島カズ)
◇◇◇
タトゥーの代わりにレーザー脱毛をする羽目になり、第1回目を体験させられたその翌日。
この日は土曜日で学校は休みだが、特に予定はないし、好きなだけ寝るつもりでいたら電話が鳴った。
サイドテーブルに手を伸ばしてスマホを取り、半分寝ながら電話に出た。
「もし……もし……」
『ごめん、寝てた？』
翔吾からだ。
「ああ、うん……今何時かな」
『10時過ぎてるよ』
もうそんな時間か……って思ったが、昨日の変態プレイが堪えたのか……やたら眠い。
「あ……そっか……」
『あのさ、久しぶりにうちに来ない？ 親父は慰安旅行に行ってていないし、あれからうちの連中にはちゃんと言い聞かせたから、もうあんなのを見る心配はないよ』
翔吾は学校でもたまに誘ってくるが、とうとう休みの日に誘ってきた。
テツと顔を合わせたくないのもあるが、昨日会ったばかりじゃ余計に気まずい。
「ごめん、俺ちょっとしんどくて、ゆっくり寝たい」
『そっか昨日休んでたね、まだ具合悪いなら僕の家で休むといいよ、ベッド貸すから、友也んち誰もいないんでしょ？』
「ああ」
『ほら、食事とか用意するから、僕ね、今はまたフリーなんだ、やっぱり別れちゃった、それに、最近やたら親父に付き合わされるから、ゆっくり出来る日がなくなっちゃって、今日は親父が旅行に行って帰らないし、こんな日は滅多にない、ね、頼む、居てくれるだけでいいから』
断わろうと思っていたが、確かにここ最近翔吾は忙しそうにしている。
俺も、あの時約束を破って家に帰ったのは悪いと思ってるし……。
テツと顔を合わせても、素知らぬふりをしていれば何とか誤魔化せるか？
「わかった、じゃ、お邪魔させて貰おうかな」
誘いを断り続けるのは悪いから、久しぶりに行ってみる事にした。
『やったー！ えへへっ、嬉しいな、じゃあ、誰か迎えに行かせるよ、そうだな～』
翔吾は子供のようにはしゃいだ後で、今から寺島を行かせると言い出した。
迎えは要らないと断ったが、白いプリウスで行かせるから家で待っててくれと言って、一方的に電話を切ってしまった。
翔吾は住所を知ってるし、ナビを使えば家の場所は分かるだろう。
それにあのプリウスなら、近所の人に見られても不審に思われる事はないと思うが、テツじゃなく、寺島をよこすのはたまたまか……。
ちょっと気になったが、テツは乳母役だから寺島にしたんだろう。
兎に角、急いで用意をしなきゃいけなくなった。
バタバタと身支度を済ませて軽く朝食をとっていると、外でクラクションが鳴り、慌てて口の中の物を飲み込んだ。
流しの桶に皿を突っ込んで急いで玄関から出たら、家の前にプリウスが止まっている。
「早っ……」
自転車だと、翔吾の屋敷まで結構時間がかかるのに、寺島はすっ飛ばしてきたのか？ 運転席に座ってるのが見えた。
俺が見ていると、寺島は窓を開けずに俺に向かって手招きする。
すぐに出られるようにショルダーバッグは肩にかけていたが、寺島に頭を下げて返し、一旦家に入った。
待たせちゃ悪いので、鍵やら何やらを手に持ってバタバタと靴を履いて玄関を出て鍵をかけた。
走って車の傍へ行き、もう1回頭を下げて助手席に乗り込んだ。
「あの、どうも……」
「おう、久しぶりだな」
寺島と一対一で会うのは初めてだ。
テツの前でペコペコ頭を下げる姿しか見た事がなかったが、今は俺と一対一だから、いかにもヤクザという雰囲気で接してくる。
寺島はすぐに車を出した。
テツと翔吾、それに三上もだが……。
基本的にそれ以外の組員とじかに関わる事はないし、極力関わりたくない。
翔吾の屋敷に着くまで、黙っていようと思った。
「若はお前の事が気に入ってるんだな？」
しかし、寺島は突拍子もなく翔吾の事を聞いてくる。
「あ、まあ……、そうなのかな」
ちょっと困惑しながら答えた。
「おお、気に入ってる、お前は若の事をどう思ってるんだ？」
何故寺島がそんな事を聞くのか、よくわからない。
「え、どうって……、いい友達だと……思ってます」
当たり障りのない事を言って返した。
「ふーん……」
俺が答えたら、寺島は返事だけして黙り込んでしまった。
──よく分からない人だ。
「矢吹の兄貴も、お前の事を気に入ってるんだな？」
ま、別にいっか……と思って窓の外を眺めていると、今度はテツの事を聞いてきた。
「え、あの……」
どう答えていいか戸惑ってしまった。
「ハッキリ言わねーか！」
すると、いきなり声を荒らげて怒鳴る。
なんか……変な人だ。
元から関わるつもりはないが、この人とは関わらない方がいい。
ほっとこうと思い、ビビってるふりをして無言を貫いた。
「兄貴は頼れる男だ」
そしたら……寺島は独り言のようにポツリと呟く。
そんな事を言われても、どうリアクションしたらいいんだ？ 困ってしまったが、一応相槌だけは打っておこうと思った。
「そうですね……」
「俺はこんな風に頼りねー、兄貴にゃ世話になりっぱなしだ」
『確かにそうだ』と心の中で思ったが、兎に角返事はした方がいいだろう。
「そ、そうですか……」
「友也」
寺島は付き合いもないのに、いきなり俺の事を名前で呼ぶ。
「はい……」
「おめぇ、兄貴に気に入られてるなら、そんな兄貴の心情を有り難く思え」
「はい……」
「若はお前にとってツレでも、兄貴は違う、あんな男はそうはいねぇ、俺は兄貴を崇拝してる、兄貴の為なら命もいとわねぇ、たとえ火の中水の中……な心境だ」
次に何を言ってくるかと思ってハラハラしていると、寺島は自分の気持ちを明かし、とんでもなく大袈裟な事を言った。
「そ、そう……ですか……」
俺は寺島の事を単にトロい人かと思っていたが、めちゃくちゃ暑苦しいタイプらしい。
「おめぇも兄貴を崇拝しろ、いいな？」
しかも、高圧的に言ってくる。
「あ、はい……」
崇拝って……。
まるで何かの宗教の信者みたいだが、寺島はマジで言ってるし、ここは頷いた方が賢明だろう。
「本当にそう思ってるのか！」
なのに、また声を荒らげて怒鳴った。
「あの、はい……」
もうやだ、この人……。
「よし、今の言葉、決して忘れるな」
俺はただただ唖然とするばかりだったが、そんな中でテツを崇拝する事を無理矢理約束させられた。
やっぱ変過ぎる。
寺島とは……もう2度と一対一で会いたくない。
その後、寺島が何も話しかけてこない事を祈りながら、早く屋敷に着く事を願っていたが、運良く何も話しかけて来なかった。
屋敷に着いたら真っ直ぐに翔吾の部屋に案内された。
「若、友也を連れて参りやしたぜ」
翔吾の部屋の前に立ったら、寺島はドアをノックして翔吾に声をかけたが、俺は久しぶりに来た事もあって懐かしく感じた。
「ああ、入って」
「失礼します」
翔吾の事が聞こえたが、懐かしさでつい屋敷の中を見回していると、寺島がドアを開けて俺の背中を押した。
「ほら、入れ」
「わ……」
よろつきながら部屋の中に入ったら、翔吾が走り寄ってきた。
「友也ー！ 待ってたよ」
いきなり抱きつかれて面食らったが、笑って誤魔化しつつ、何気なく部屋の中へ目をやった。
「あはは……、大袈裟だな」
テツがいるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしていたが、テツはいなかった。
「それじゃ若、俺はこれで」
「あっ、寺島、ありがとね」
寺島は挨拶して部屋から出て行き、翔吾は寺島に声をかけて俺から離れたが、俺はクローゼットの前に吊るされた紋付羽織袴に目をとめた。
「あれを着るんだな」
「うん、儀式とか色々あるから」
「そっか、大変だな」
「ま、仕方がないよ」
翔吾は黒が似合うから、あの羽織袴もきっとよく似合うだろう。
俺は翔吾の事をちょっと誤解してた。
翔吾は上の立場だし、気楽なんじゃないかと思っていたが、若頭になるって事は……それはそれで何かと大変そうだ。
自分は気楽で良かった……と思ったが、不意に自分だけ取り残されたような気分になった。
俺は就職とか何にも考えてないし、翔吾も前は俺と同じだったが……今は違う。
「友也、それより、具合が悪いなら寝てなきゃ」
自分の不甲斐なさに呆れていると、翔吾に話しかけられてハッとした。
「あ、うん……、でもソファーでいいよ」
疑ったりしちゃ駄目だと思ったが、どうしても『もしも迫られたりしたら……』って考えてしまい、ベッドで寝るのは抵抗がある。
「駄目だよ、僕が介抱したげる、ね、ほらベッドに行こう」
昨日休んだのは仮病だが、翔吾は俺が本当に具合が悪いと思っている。
何だか悪いような気がしてきて、素直にベッドに行く事にした。
それにしても……テツの姿が見えないのが気になる。
「わかった、じゃあ悪いけど使わせて貰う、で、あの……テツは？」
ベッドに向かって歩きながら、できるだけさらっと聞いてみた。
「ああ、慰安旅行についてった」
「え……、そうなんだ」
昨日会った時は何も言ってなかったが、元々予定を口にするタイプじゃないし、別に気にする事はないと思ったが、何かひっかかる。
「たまには息抜きも必要だからね、代わりに寺島を置いてった、でさー、宿泊する温泉旅館は親父がやってるようなものなんだ、だから同じ稼業の人間が主に利用してる」
寺島を迎えによこした理由はわかったが、温泉旅館と聞いて、さっき引っかかったのはそれだと思った。
「へえ、凄いな」
「全然大した事じゃないよ、経営が傾きかけた旅館を手に入れるのは簡単だからね、それよりも……どうしてそんな物を手に入れるの？ って思うだろ？ 友也だから教えたげる、それは……自由に使えるからだ」
翔吾は俺が聞かなくても旅館について話し始めたが、なんだか怪しげな事を言い出した。
「自由に？」
「うん、コンパニオンを呼んだり、芸者を呼んだりして馬鹿騒ぎが出来るでしょ」
「ああ、そうか」
「ふっ、乱交パーティーになる事もあるけどね、ま、だけど、そういう女は慣れてるだけに面白くはないかな、それよりさー、たまに素人が呼ばれる事があるんだ、そっちの方が楽しめるかもね」
なんとなくそんな気はしていたが、宴会の時にいかがわしい事が行われるらしい。
「乱交パーティー？ なんか……別の意味で凄いな、で、素人ってなに？」
「借金のカタとか、まあ、理由は色々だけど……カタギっていうか一般人、ふふっ、単に酌をするだけじゃ済まないんだよねー」
「また乱交？」
「うーん、それもありだけど、兎に角さー、素人はすんなりいかないでしょ？」
「え……、すんなりって……？」
「ほら、商売女みたいにサービスしないし、無理矢理になっちゃうでしょ」
「あ、ああ、そっか……」
「ひとりじゃなくて数人連れてくる時もあるんだけど、そんな時はお座敷で品定めって事も」
「ん、なにそれ？ どういう事？」
「真っ裸に剥いてー、色んな事をされちゃう、ふふふっ……、ただオモチャにしてるだけだよ」
「ええっ……オモチャ……」
翔吾は聞いただけでおぞましくなるような事を楽しげに話す。
「びびった？」
「びびったというか、それ……ヤバくね？」
完璧に犯罪だろう。
「媚薬……場合によっては薬を使う、嫌でも感じちゃうからね、で、お座敷で楽しんでー、その後は各部屋を慰問させる、人数が多いと一晩じゃ終わらないけどね、薬でハイになってると、喜んでオモチャにされるから、それをビデオに撮られたりしたらー、まず訴える奴はいないよ、ふっ……、まあー僕は女には興味ないし、どうでもいいけどね」
翔吾……普段俺にはめちゃくちゃ優しくしてくれるけど、やっぱりヤクザの息子だ。
怖い事を平然と言ってのける。
その上、男しか愛せないと言う位だからか、連れてこられた女が酷い扱いを受けても何とも思ってないようだ。
「えー、ちょっとそれ……怖すぎだろ」
「これは内緒だよ、誰にも言っちゃ駄目、友也だから話してあげたんだからね」
俺がドン引きしていると、翔吾は口外しないように言ってくる。
「あ、ああ、わかった……」
そんな事、頼まれなくても気軽に言えるわけがない。
「そうそう、親父が話してるのをチラッと聞いたんだけど、今回の旅行も誰か連れて来られるみたいだ」
だが、翔吾は輪をかけて嫌な事を言った。
「え……」
「テツも久々に楽しめていいんじゃないかな、親父もだけど、バイセクは得だね、僕は違うから、僕はやっぱり一途なのがいいよ」
「あ……」
テツがいかがわしい宴会に参加すると思ったら、奈落に落ちるような気分になった。
「ん、友也……どうかした？」
「い、いや、別に……」
だけどそれを顔に出すのはマズい、焦ってなんでもないふりをした。
「あっ、話が長くなっちゃったね、ほら、横になって」
「あ、ああ……」
翔吾に促されてベッドに横になったが、今の話で何だか体の力が抜けていた。
それから後、翔吾は甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
学校を休んだ理由は風邪からきた腹痛だ。
翔吾にもそう言ったが、 翔吾は『だったら消化のいい物がいいね』と言って、下っ端に頼まずに自らお粥を作りに行った。
嘘をついてるのにこんな事までして貰ったら、申し訳なくて堪らなくなったが、テツは今頃……。
想像したら腹が立ってきたが、腹を立てても仕方がない。
テツはヤクザだし、これが普通なんだろう。
そう思って割り切ろうとしたが、翔吾が言った『バイセクは得だね』という言葉が、やけに胸に突き刺さってくる。
バイセクだから俺に手を出し……女をオモチャにして……朱莉さんを捨てた？
俺はテツに惹かれる自分を止められずにいるが、それは朱莉さんだって同じだった筈。
その朱莉さんはソープで薬漬けになって、パイパンではなかったが……タトゥーは入っていた。
三上は『いずれウリをやらされる羽目になるぞ』と俺を脅した。
あいつの事なんか好きじゃないし、ウリをやらされるとは思ってないが……三上の言ったセリフを思い出したら、やたら悲しくなった。
「ね、友也、ちょっといい？」
かたく目を閉じて何も考えないようにしていると、翔吾がベッドの傍にやって来て話しかけてきた。
「ああ」
「こんな事を言ったら、また嫌われるかもしれないけど……、もう一度僕との事を考え直してくれないかな？」
なにかと思えば、俺が触れないようにしている事に触れてくる。
「え？」
「もう前みたいにいきなりキスしたりしない、友也が僕の方へ向いてくれるまで……気長に待つ、うちの子で年下の子と付き合ってみたけど……やっぱり駄目だ、僕が好きなのは友也だけなんだ、ね、やっぱり……駄目かな？ 気持ち悪いって……そう思ったりする？」
素知らぬ顔で付き合っておきながら……狡いかもしれないが、俺は翔吾の気持ちを分かっていた。
だから、今更驚く事じゃない。
テツにあんな事をされ、訳が分からないうちにこんな事になってしまったが、テツのせいで……今の俺は以前の俺ではなくなっている。
翔吾の事はあくまでも友達として見てきたが、テツは『俺は浮気するぞ』とか言ってたし、今だって……。
それに、テツが勝手に俺を自分のモノにしただけだ。
翔吾とは友達なんだし、この際、考え直してみるのもアリかもしれない。
「翔吾、俺は気持ち悪いとか、そんな事は思ってねー、これは本当だから……、たださ、俺は翔吾の事を友達として大切に思ってきた、だから今すぐそういう気持ちになるのは無理だけど……、それでもいいなら考え直してみる」
但し、すぐにそういう付き合いをするのは無理だ。
テツとの事もあるし、翔吾に対しては友達って感覚が強い。
けれど、テツだって好きにやってるんだから、俺だって自由にやってやる。
時間はかかるかもしれないが、それでもよかったら……って思った。
「うん、それで十分だよ、ありがとう友也」
翔吾は嬉しそうに微笑むと、俺の手をギュッと握って礼を言った。
その日は夕方まで翔吾の介抱を受け、夕方になって再び寺島に送って貰う事になった。
寺島と一対一は2度とゴメンだと思っていたが、断わる理由がないし、仕方がない。
翔吾に見送られながら、寺島の運転するプリウスに乗って帰途についたが、俺は触らぬ神に祟りなし……な心境で黙り込んでいた。
「なあ、友也」
だが、寺島は来た時と同じようにまた話しかけてくる。
「はい」
「連れてくる時はつい熱くなっちまった、悪かったな」
何を言われようが動じるものか……って、腹を括って身構えていたが、寺島は詫びを言って穏やかに話をする。
「いえ」
あれ？ って思って拍子抜けした。
「兄貴を崇拝しろって言ったのは、ちょいと言いすぎかもしれねーが、そりゃな、兄貴は本当にそう思うだけの価値がある男だからだ」
「そうですか……」
「おめぇが板を探してきてくれたあの時、あの後兄貴はおめぇの事を褒めてた」
「褒めた？」
「おう『今のガキ悪くねー』って、そう言った」
「そう……ですか…」
それって……喜んでいいのか？
「その後『もう会うこたぁねーだろう』って、溜め息混じりに言って『あのガキに金を渡したが、びびって受け取らねぇんだ』と、投げやりにそう言った、で、俺は金はどうしたのか聞いた、いっぺん出した物を引っ込めるのは俺らにとっちゃ恥だからな、そしたら兄貴は『脅して無理矢理握らせてやった、俺らの稼業じゃビビるのも仕方ねーよな、なのに結局脅しちまった』って、そう言って笑ったが、俺はどこか皮肉めいたような……悲哀を感じた」
「そうですか……」
「なあ、友也」
「はい……」
「今こうして並んで座っていても、俺とおめぇの間には目に見えねぇ隔たりがある、この世界に入った事を後悔してるわけじゃねーが、たまにその隔たりを身に染みて感じる事があるんだ、俺にはそん時の兄貴の気持ちが、よーく分かった、だけど……良かったぜ」
「何が……ですか？」
「兄貴がおめぇと再会できたからだ、兄貴はおめぇに自分の事を名前で呼ばせてるだろ？ あれはさっき言った目に見えねぇ隔たりをとっぱらいたかったからだ」
「あ、そうなんですか……？」
「おおそうだ、おめぇ……そんだけ兄貴に気に入られてるんだからな、俺が言った事をしっかりと心にとめておけ、わかったな？」
「……はい」
寺島は終始穏やかに語っていったが、よっぽどテツを慕っているんだろう。
テツも寺島の事を話していたが、テツと寺島の間にはしっかりとした絆がある。
それがよくわかった。
またそれとは別に、俺はテツが自分の事を名前で呼ばせる理由を聞いて心が動かされた。
テツは俺には『お前は若のツレだから、特別に名前で呼ばせてやる』と言っていたが、目に見えない隔たりを取り除く為だったとは……知らなかった。
それから……。
寺島は話の最後にまた俺に念押しをしたが、俺だって本当はテツを信じたい。
けど、翔吾から聞いた宴会の話がリアル過ぎて、嫌でも禍々しい事が頭に浮かんでくる。
正直、そんな話は……聞きたくなかった。
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