17tangle

1/1
前へ
/23ページ
次へ

17tangle

◇◇◇ 週のど真ん中。 今日はテツが戻って来る。 夕べ俺は色々考えた。 普通の高校生に戻り、元の自分を取り戻す。 それが最善な事だとしたら、今になってそんな事ができるだろうか。 火野さんは翔吾とは学友だから……と言った。 確かに翔吾とは話が合うし、一緒にいて楽しい。 ただ、火野さんは三上についてはどんな奴か知っていたが、翔吾についてどの程度知っているのか、そこら辺は謎だ。 けど、今のところキスをされただけで、ただの友達レベルだし、翔吾は無理にやろうとする事はない。 火野さんは『翔吾以外とは縁を切った方がいい』とも言った。 もし元の俺に戻ろうって……本気でそう思うなら、体の関係を持つ2人とは縁を切った方がいい……って事になるだろう。 三上はどうでもいいし、むしろ縁を切りたい。 だけどテツは……。 俺は今も、テツから連絡が来るのを待っている。 どうしたらいいんだ? 結局何も決められないまま、会いたい気持ちだけが膨らんでいた。 その気持ちを隠して、休み時間に翔吾と話をする。 「源ちゃん、今日でテツと交代だ、ね、源ちゃんのスマホの番号教えたげよっか?」 「何言ってるんだよ、意味わかんねー」 名刺を貰ったので、火野さんの電話番号は知っているが……盛大にすっとぼけた。 「あはは、だよねー、でもさー源ちゃん、またストイックな生活に戻るんだー、夜明け前に起きて木刀で素振りとか、よくやるよね、ほんと、ガチで侍じゃん」 翔吾は火野さんの事を変わり者のように言うが、そんな事はない。 『何か困った事があったら連絡しろ』って、めちゃくちゃ頼りがいがあるし、かっこいい……。 「友也?」 「ん、ああ……」 「何考えてるのかなー? 源ちゃん……じゃなかったら……、他の誰かの事?」 翔吾はチラッと勘ぐってきたが、テツの事を疑ってるわけじゃないだろう。 「そんなのいねぇよ」 「冗談だよ、じゃあー、今日はうちに寄れる?」 「あ、でも……、親父さん、帰ったばかりだろ?そんな時にお邪魔しちゃ悪いし」 「ふふっ、親父は真っ直ぐ家には帰らない、どうやら最近気に入った相手がいるらしいんだ」 「ん? もう年だから遊ぶのは無しだって言ってなかった?」 確か、前にそんな事を話していた。 「へへーん、いい薬があったらしい」 「薬?」 「ヤバいやつじゃないよ、ほら、サプリメントみたいなやつ」 「そうなんだ、へえ……」 「どんな相手か聞きたい?」 「いや、別に……」 親父さんが付き合ってる相手に興味はない。 「シーメール」 なのに、翔吾は勝手にバラした。 「シーメール? なにそれ?」 でも俺には意味がわからない。 「巨乳でー、アレがついてる」 「アレって……、ひょっとして……ナニ?」 「そう、ニューハーフだね」 「ニューハーフ、ふーん……」 親父さんも、まだまだ現役なようだ。 「興味ない?」 「全然ない」 あのいぶし銀な厳つい親父さんが、巨乳シーメールと……。 想像したくなかったが、俺にとってそんな事はどうでも良かった。 帰りがけに翔吾の屋敷に寄り道する事になり、テツと会う事になってしまったが、テツは旅行先からムカつく電話をしてきて、それっきりだ。 俺がいきなり寄り道したら……上手くリアクションしてくれるか、それが超不安だった。 だが、そういう時に限って時間がすぎるのが早い。 あっという間に、屋敷の玄関をくぐる時がきてしまった。 元から『次に屋敷内でテツに会う時は……』って覚悟を決めていたが、結局火野さんのアドバイスには従えそうにない。 翔吾のあとについて玄関に入ったら、予想どうりテツが出迎えた。 内心穏やかではいられなかったが、テツは頭を下げてるし、俺がいる事にすぐには気づかなかった。 「若、お帰りなさいやし」 「うん、友也も一緒だよ」 テツが頭を上げかけた時に、翔吾が俺がいる事を伝えた。 「え……」 すると、テツは驚いた顔をして俺を見る。 マズいと思ってすぐさまテツに声をかけた。 「テツ、久しぶりにお邪魔しま~す」 できるだけ屋敷に通ってた時と同じように、軽いノリで言った。 「お、おう……、友也、久しぶりだな」 テツに向かって頭を下げたら、慌てたように言葉を返してきた。 テツはいつも冷静に対処するのに、意外な反応を見せる。 「上がって」 だけど些細な事だし、翔吾は何も気づいてないようだ。 「ああ、うん……」 とりあえずほっとしたが、問題はこの後テツがどう振る舞うか、そこが気になる。 屋敷に上がって翔吾の部屋に入ったが、テツは部屋にはついてこなかった。 「友也、隣いい?」 「ああ……」 ソファーに座ったら、翔吾は当たり前のように聞いてくる。 OKしたらべったりとくっついて座り、俺の腕に腕を絡めてきた。 別に構わない……。 そう思ってはみたが、こんなところをテツに見られるのは……なんか抵抗がある。 「ね、たまには一緒に宿題やろっか?」 テツが来ない事を願っていると、翔吾が宿題をやろうと言い出したので助かった。 「あ、うん、そうだな」 カバンは自転車の荷台に括り付けたままだ。 自転車は玄関の脇に置かせて貰っているので、すぐにカバンを取りに行った。 靴を履いて玄関から外に出たら、自転車の所まで歩いて行って荷台のゴムを外しにかかったが、背後に人の気配がして何気なく振り返った。 すると、テツが壁伝いにこっちに歩いてくる。 なにしに来たのか知らないが、たまたま通りかかったのなら、素知らぬ顔で通り過ぎて欲しい。 俺はピリピリとした緊張感に包まれたが、テツは俺の傍に来て立ち止まった。 「おい、友也」 しかも話しかけてくる。 「あ……、ちょっとヤバいだろ」 声を潜めて話しかけてきたが、ここには監視カメラがあるし、俺はハラハラしながら答えた。 「分かってる、あさって祭日だろ、昼から会おう、また連絡する、いいな?」 「分かった」 テツは俺の肩を軽く叩いて玄関から中に入って行った。 「はあ……」 肝を冷やすというのは、こういう事か……。 まぁでも今の程度なら、単に久々だから声をかけたって感じに見えるだろう。 にしても、わざわざ言いに来なくても電話すれば済む事なのに……無駄に冷や汗をかいたじゃないか。 我に返って外しかけのゴムを外し、カバンを抱えて翔吾の所へ戻った。 再び翔吾と並んで座り、宿題を一緒にやっていったが、数字と記号が羅列する数式は、見ているだけで眠気を誘う。 「うーん……、もう……無理」 シャーペンを投げ出してソファーに背中を預けた。 「しょーがないな、じゃあ、僕がやってあげるよ」 「ほんと? 助かるー、じゃ、あとはお願いしまーす」 「ああ、任せといて」 翔吾はクラスの中じゃ成績はいい方だし、ここは素直に甘えよう。 額に手を当ててぼんやりと天井を眺めていたが、昨夜は色々な事を考えてろくに眠れなかった。 ここんとこそんな事ばっかしだ。 うつらうつらしているうちに、本格的に眠くなってきた。 フカフカしたソファーが眠気を誘い、瞼を閉じて寝入っていると、不意に柔らかな感触が唇に触れてきた。 「う……、翔吾?」 目を開けたら翔吾の顔が目の前にあった。 「キス……いいよね?」 俺の方へ乗りかかるようにして、じっと見据えて聞いてくる。 「あ、ああ……」 断れずにOKしたらドアをノックする音がした。 「若、いいですか?」 ──テツだ。 「どうぞ」 「あ、あの……、ちょっ」 焦って離れようとしたが、翔吾はテツに返事を返して俺の両肩を押さえつけてきた。 体重をかけてるせいで動けず、抵抗する間もなくキスされた。 「んっ!」 その直後にドアが開く音が聞こえ、少し間を置いた後でテツの声がした。 「あ、邪魔してすみません、ここに飲み物を置いておきますんで、失礼しました」 テツはジュースを持ってきたらしいが、俺達がお取り込み中だったので、即座に出て行こうとする。 「あ、待って! 行かなくていいよ」 翔吾はキスをやめてテツを引き止めたが、俺はテツと目が合ってしまい、激しく動揺してしまった。 「いや、けど……、若、せっかくお楽しみのところを邪魔しちゃ悪いっす」 テツは俺が屋敷に来た時は狼狽えていたように見えたが、今はあんなものを見てしまったというのに、不思議な位落ち着き払っている。 「いいって、ほら入って」 翔吾は部屋に入るように促したが、キスしたいんじゃなかったのか? テツがいたら邪魔だと思うんだが……。 「へい、それじゃ……失礼します」 「座ったら?」 「あ、ああ……、はい」 テツは翔吾に言われて俺達の向かい側に座ったが、顔を背けるわけにもいかず、目のやり場に困った。 「ふふっ、テツ聞いてくれる? 友也ね、僕との事を考え直してくれるって、そう言ってくれたんだ」 翔吾は嬉しそうに俺との成り行きをテツに話したが、テツは一瞬眉を顰めて困ったような顔をした。 「そうですか、それはよろしゅうございましたね、これで残り少ねー学生生活を楽しく過ごせますよ」 俺はテツがどう答えるのか……気になったが、テツはすぐに表情を変えると、笑顔で祝福するような事を言った。 「うん、テツも喜んでくれる?」 翔吾は何も知らないんだから当然だが、あっけらかんと聞く。 「そりゃあ、勿論でさ」 テツはさも喜んでいるかのように答える。 「だよね、テツはいつも友也に絡んでたし、暫く来なくなって寂しかったでしょ?」 「ええ、そりゃまぁ……、友也をおちょくるのは、退屈しのぎにゃちょうどいい」 「ふふっ、じゃあ、また前みたいに友也をいじめて遊べるね?」 「そうさせて貰いやす」 「懲りないねー、テツは」 「はははっ、体を鍛えても使い道がねーから、体力が有り余ってるんでさ」 2人はごく普通にやり取りをしているが、俺はどことなく不自然な感覚を覚えた。 まぁでも、きっと気のせいだろう。 「おい友也、覚悟しろ」 気にしないようにしようと思っていると、テツがやる気満々な顔で言ってきてギョッとした。 「あ……、いや、それはちょっと……、ははっ……」 早速格闘技の技をかけるつもりらしい。 無理矢理笑って誤魔化したら、テツは意地悪くニヤついた。 「へへー、じゃ久々にやるか」 こんな薄氷を履むような状況下で絡み合うとか、無謀過ぎる。 なのに、テツは立ち上がって俺の背後に回り込み、両腋に手を突っ込んでぐいっと持ち上げた。 「え? ちょっと、マジかよ、嘘だろ?」 「来い!」 「い、いや、あのさー、再会したばっかしだろ……、は、はなせ!」 「へへっ、どうだ!」 確かに……以前と同じように振る舞った方がいい。 それはわかるが、いくら翔吾が言ったからといって、何も今すぐにやらなくてもいいだろう。 阿呆だ、阿呆過ぎると思った。 技をかけられるのは嫌だったが、ソファーから引きずりおろされ、部屋の真ん中で組み敷かれた。 テツは以前やった縦四方固めという寝技をかけてきたが、これは柔道の技で上半身は腕でガッチリ固められ、下半身も跨るような格好で押さえ込まれる。 簡単に言えば、仰向けになった俺にテツがのしかかり、力一杯抱き締められるようなものだ。 まだ体の関係を持つ前も、こういう寝技をかけられるのは妙に気恥ずかしかったが、今はその時とは違って変にドキドキしてしまう。 「苦しい……って、や、やめろよ…」 「手加減してやってる、逃げてみろ」 「む、無理だって、ギブ!」 「だめだなー、マシーン貸してやるから体を鍛えろ」 「嫌だ、やりたくねぇ、つか退いて!」 「テツ、寝技得意だもんねー」 翔吾がやってきて意味深な事を言ったが、上からじとーっと見下ろして言ってくるので、非常に気まずい……。 翔吾と目を合わせられず、勘弁してくれと思いながら目を瞑ったら、テツは腕を立てて起き上がった。 「よし、今日はこのくらいで許してやる」 「はあ、無駄に体力使った……、俺さ、この後自転車漕いで帰らなきゃいけないんだからな、まったく」 自転車で疲れるのは本当だが、本音を言えば……今のは精神的にかなり疲れた。 「テツ、今日は僕も真面目に勉強したいし、ちょっと早いけど、そろそろ友也を送ったげて、アルファードなら自転車も積めるからあれがいいよ」 「分かりやした」 「あ、悪いからいいって……」 「友也、遠慮しなくていいから、というか遠慮は無し、わかった?」 「あ、うん……、わかった、ありがとう」 予想より早く帰宅する事になり、翔吾の厚意に甘える事にしたが、てっきりまた寺島にでも送らせるのかと思っていたら、テツに送らせると言う。 って事は……俺とテツの事は疑ってない。 ホッとして、テーブルの上に散らかったノートやシャーペンをカバンにしまい込んだ。 立ち上がってゴソゴソしていたので、一旦ソファーの方へ戻ろうとしたら、目の前に翔吾が立ち塞がった。 「ん?」 翔吾は俺と同じくらいの背丈なので、同じ高さで見つめ合う格好になる。 「友也、キス、もう1回いい?」 テツは俺の真後ろにいる。 翔吾から見れば、テツは俺を挟んで正面にいる事になるが、テツが見ているにもかかわらず、キスをしていいか聞いてくる。 テツの真ん前でやるのは嫌だったが、拒んで変に怪しまれたら困る。 「うん……」 返事をしたらすっと顔が近づき、軽く唇に触れて直ぐに離れた。 翔吾はいつもそんな風に軽~いキスをするので、俺は密かに安堵していた。 「今日はありがとう、またちょくちょく来てくれる?」 翔吾は笑顔で聞いてくる。 「ああ、またお邪魔させて貰うよ」 俺はほんと言うと度々来るのは遠慮したかったが、翔吾が望むならまた来るつもりだ。 翔吾は納得したように頷き、その後テツに送って貰う事になった。 翔吾に見送られながら車に乗って屋敷を後にしたが、嬉しそうに手を振る翔吾を見たら……罪の意識を感じた。 「おい」 深~い溜め息をついたら、テツが声をかけてきた。 「ん?」 「おめぇ、俺がいねぇ間に若とよりを戻したのか? ったくよー、何故今になって急によりを戻すんだ、若とは友達どまりじゃなかったのか?」 テツは翔吾との事を責めるように言ったが、それなら俺だって言いたい事がある。 「よりを戻したわけじゃない、俺は自分なりに考えてそう決めたんだ、あんたは旅館で女とイチャついてたんだし、別にいいだろ、翔吾は元々友達だ、コンパニオンだかなんだかしらねぇけど、そんなのにサービスされて喜んでるよりは、よっぽどマシだ」 「へっ、おめぇ妬いてんのか」 「そんなんじゃねー、気に入ったら男女見境なく手をだすような人間と、一緒にされちゃ困るって事」 「あのな、あの旅行は単なるつきあいだ」 「だとしても俺には理解できねーし、したくもない、火野さんみたいに真面目な人間だっているんだからな」 旅行で何をしてきたのか知らないが、付き合いだと言い切るから、余計に腹が立った。 「ほおー、火野に会って、あいつが気に入ったか? 確かに奴は変人レベルで真面目だからな」 しかも、テツも火野さんの事を変人扱いする。 「そんな事ない、それが普通だ、感覚がおかしいのはあんたの方だ」 もろヤクザ感覚だから、火野さんみたいな普通の人が異常に思えるんだろう。 「ちょっと待てよ、おめぇ、まさか火野と何かあったのか?」 すると、突拍子もなく馬鹿な事を聞いてくる。 「あるわけねーし、大体あの人ノーマルだろ、バツイチって言ってたし」 火野さんはそんなんじゃない。 「ふん、わかるものか、ああいう奴は逆に怪しい」 なのに、テツは火野さんの事を疑っている。 「あんたが穢れ過ぎてるんだよ」 好き放題遊んできたから、欲に塗れてそういう考え方になるんだ。 「言ってくれるじゃねーの、ほんとお前って奴ぁ、とことん可愛げのねーガキだな」 テツは三上と同じような事を言って、家とは違う方向へ向かって行く。 「ちょっとどこ行くんだよ、道が違うだろ」 「うるせー」 「家に着いたら翔吾に電話するって言ってるんだ、早く送ってくれ」 別れ際に翔吾と約束した。 「若か、ふっ……」 だが、テツは不敵な笑みを浮かべる。 「なに笑ってるんだ?」 「いや、なんでもねー」 テツは自分の事を思いっきり棚に上げて火野さんの事を疑い、翔吾の事を口にして意味深にニヤリと笑ったが、これは……このままラブホにインする可能性大だ。 「とにかく、ラブホはだめだからな」 一応釘を刺したが、いつの間にか車はいつもの道からかなり離れた場所を走っている。 「な、さっきからどこに向かってるんだよ」 一体どこへ行くつもりなのか、不安になってきた。 「こっちだ」 テツはひとこと言ってハンドルを右へ切り、よく分からない場所に入って行った。 「ん? なにここ、駐車場?」 中に入ったらだだっ広い駐車場だったが、街灯は角にあるだけで真ん中辺りはかなり暗い。 「んん? なに?」 よく見たらあちらこちらに車が止まっていたが、テツはそれらの車から離れた場所に車を止めた。 俺はなにかあるのかと思って辺りを見回したが、駐車場の周りはぐるりと樹木に囲まれている為、向こう側に何があるのかまったく見えない。 「なあ、なにしにこんな所にきたんだ?」 「へへー、いいからこっちへ来い」 なんなのか聞いたら、テツはニヤニヤしながら腕を掴んできた。 「えっ……」 こういう顔をする時は、十中八九エロい事を企んでいる。 「あの、まさかとは思うけど……、ここで何かやろうとか、そんな事考えたりしてねーよな?」 「よく分かったな」 やっぱり当たりだった。 こんな場所で何かやろうとか、変態にもほどがある。 「いやちょっと、ここがどこだかしらねぇけど、何かの駐車場だろ? 何考えてんだよ」 「そんなにびびるな、ここはな、寂れた公園の駐車場で、そういう事をするスポットだ」 腕を掴む手を強引に振りほどいたが、怪しげなスポットだと聞いたら……つい興味を惹かれてしまった。 「それって……もしかして車ん中でって事?」 「そうだ、車を止めてる奴らもそういう事をやりに来てんだよ、皆離れて止まってるだろ?」 テツの言葉を聞いて改めて駐車場を見てみたら、確かに駐車場に止まっている車は、互いに距離を置いている。 「ほんとだ、確かに離れて止まってる」 「よし、分かったらやるぞ」 俺はまだ半信半疑だったが、テツは有無を言わさず襲いかかってきた。 「え、あ……、ちょっと、待っ」 「時間がねー、おとなしくしろ」 「いや、でも……」 狼狽える俺を無視してのしかかり、シートを倒して強引に唇を塞いだ。 「んんっ!」 いくらスポットだと言われても、こんな場所で……車の中で……。 「うう……ん」 誰かに見られるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたが、頭を押さえつけられて貪るように唇を吸われたら、急速にエロい気分が高まっていった。 髭が顔を擦り、舌が入り込んで口の中をなぞりあげると、頭の中が逆上せて馬鹿みたいに昂ってくる。 それに誰かに見らるんじゃないか? ってスリルが……逆に興奮を煽る。 背中を抱く手を下に滑らせて股間を弄れば、予想通りそこは硬くなっていた。 硬くなった竿をギュッと握ってやったら、テツはキスをやめて俺の股間に手を伸ばしてきた。 「おめぇ、こんなにおっ勃てるようじゃ救いようがねーぞ」 「誰のせいだよ」 「へへっ、褒めてやってるんじゃねーか、おめぇは変態としては優秀な方だ」 テツは意地悪な事を言って慣れた手つきでファスナーを下げ、ズボンの中に手を入れてきた。 「う……」 張り詰めた竿をじかに握られて体が強ばった。 「待ちな、これじゃ無理だ」 テツは運転席に戻り、俺の方へ身を乗り出してパンツから竿を引っ張り出した。 「まさか、口で?」 「へっ、おめぇにゃ特別に俺の妙技を披露してやる、その代わり、おめぇをイかせたら次はお前がやれ」 俺は周りが気になって窓の外に目を向けたが、テツは俺の方へかがみ込んでるし、そばに来て窓から中を覗き込まない限り、俺達が何をやってるかわからない。 それよりも、テツがフェラをやり始めたので直ぐに股間へ意識が移った。 ナニを咥えられたら、腰の辺りがぞくぞくする。 「んうっ!」 テツは喉奥までガッツリ咥え込み、竿全体を吸い上げてねっとりとストロークさせる。 「うわ、あ、す、すげー」 吸い上げた直後に、感じる箇所を舌先で刺激してくるから、早くもナニがビクつき始めた。 「あっ、だめだ」 かがみ込むテツの背中に手をあてていたが、あまりの気持ちよさにもう限界がきてしまった。 「だ、だめだ、出る、ティッシュ……、車汚しちゃマズいだろ」 黒い上着を握り締めて訴えたが、バキュームされて瞬殺された。 「ああ、もうだめだ、ごめん出すよ、うっ!」 体液がビュッと飛び出した瞬間、目が眩むような快感が襲ったが、テツは俺が出したやつを飲んでいる。 「嘘……飲んでんの? はあ、はあ、あっ」 唖然としたが、快楽に浸るしかなかった。 脈動がおさまると、テツは運転席に戻って何食わぬ顔でシートに背中を預けたが、俺は何となく悪いような気がして、萎えたナニをしまいながら聞いてみた。 「あの……」 「ん?」 「俺、あんたに生意気な事ばっか言ってるけど、でもさ、こんな事までして貰っていいわけ? 俺はあんたから見たらガキでカタギで……ただの高校生だろ? あんたは組じゃ立場は上だし、なんか……俺、悪いよ」 「バカな事を言うな、てめぇの立場を振りかざして付き合うつもりなら、端からそうしてら」 寺島が言ったように、テツは立場抜きで俺と向き合おうとしている。 なにげに嬉しかったが、もうひとつ聞きたい事がある。 「そっか……わかった、じゃあ、飲んだりして気持ち悪くねーの?」 「慣れりゃなんともねー、よし友也、おめぇやれ、きっちり飲むんだぜ」 「うう、やっぱそうくる? 俺、飲めるか自信ねーな」 想像しただけでキツそうだったが、やって貰っただけに断わるわけにはいかない。 テツの方に身を乗り出して、ファスナーを下げてナニを出していったが、果たして飲めるかどうか……。 「息をとめて一気に飲み込むんだ、吐くなよ、車汚したらやべぇからな」 車の事を言われて尚更緊張したが、テツがやってくれたのに俺がやらないわけにはいかない。 握った竿を口に頬張って、テツがやったようにやってみた。 吸い上げてゆっくりストロークさせ、舌を動かして先端を刺激したら、ナニがビクついて我慢汁を垂らした。 「いいぞ、上手いじゃねーか」 テツは俺の背中を撫でて声をかけてきたが、俺は頭を揺らしてひたすら同じ事を繰り返した。 そうするうちに、テツは気持ち良さそうに吐息を漏らす。 感じてるんだと思ったら、妙に興奮してきた。 もっと感じさせてやろうと思って一生懸命やってるうちに、いつの間にか夢中になってやっていた。 「おい、出すぞ」 口周りを唾液塗れにしながら行為に没頭していると、テツは俺の背中を軽く叩いて言い、言った直後にナニが脈打って精液を飛ばした。 「ん"……!」 ヌルヌルとした粘液が舌や粘膜に粘り付き、言われたように慌てて飲み込んだが、鼻から抜ける匂いにえづきそうになった。 「う"っ!」 ナニを口から出して、口を手で押さえて吐き気を堪えたが、口の中にはまだ唾液が残っている。 気持ち悪くて涙が滲んできたが、テツの膝に突っ伏して耐えていると、いきなり抱き起こされてキスされた。 「んんっ!」 不意にやられてびっくりしたが、舌が入り込んで口内を舐め回し、体液混じりの唾液を舌で掬いとっていく。 口の中を綺麗にしてくれてるんだとわかった。 ドSで独裁者で変態なテツは、いつも隙を突いて優しくする。 狙ってやっているのだとしても、抱き締めずにはいられなかった。 顔が離れた時には気持ち悪さがなくなり、心の底に潜めた想いが湧き上がってきた。 「なあ、テツ」 「ちょい待て、ナニをしまってやらねぇと、出しっぱなしじゃ風邪をひいちまう」 すると、テツはムードをぶち壊す事を言ってゴソゴソとナニをしまい始め、出かかった言葉は笑いと引き換えに引っ込んでしまった。 「ぷっ、あははっ!」 ちょっと残念に思う反面、安堵する自分がいた。 「よし、いいぜ、で、さっき何を言おうとしてた?」 テツはナニをしまって聞いてきたが、さっき言いかけた事はもう言えなかった。 「フェラ、気持ち良かった?」 「おお、またやれ」 「飲むのは嫌だ」 「俺が慣らしてやる」 「拒否ったら?」 「そりゃおめぇ、手錠と鎖の出番だ」 「好きだなー、そういうの」 「おう、それより……、ぼちぼち送って行かねーとな、友也……来い」 来いと言われて頷くと、テツは俺を抱き締めてキスしてきた。 抱き合って求められるままに唇を重ねたら……火野さんの忠告が薄らいでいき、旅行の事すらどうでもよくなった。 やっぱり俺は……テツから離れられない。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加